お弁当箱に込めた、母のエール
小学2年生の息子にとって、運動会は一年でいちばんワクワクする日。応援する家族も、その日を指折り数えていました。筆者の友人・さやかさんも、前の週からお弁当の準備に気合いを入れていたそうです。
「唐揚げ! 焼き肉! 焼きそば!」とリクエストされたおかずは、見事な茶色づくし。でも、彩りよりも大事にしたいのは息子の「楽しみ!」という気持ち。ブロッコリーで少し彩りを添えつつ、母の想いをぎゅっと詰め込んだ“応援弁当”になりました。
義母の一言に凍る空気
義母は、いつもどこかで“余計なひと言”を挟まずにはいられない人です。たぶん、悪気はないのでしょう。でも、今日もまた、そのひと言が楽しい空気をあっさり台無しにしてしまいました。
家族でシートを囲み、お弁当のふたを開けたその瞬間でした。義母がぼそっとつぶやいたのです。
「茶色いわねぇ……もっと彩りって考えないの?」
せっかくの運動会。夜明け前から頑張ったのに、努力も気持ちも全部を否定されたように感じました。悔しさが喉の奥につかえて、何も言い返すことができませんでした。
お弁当のふたを開けたばかりなのに、夫は気まずそうに視線をそらし、息子はむっとした表情でした。
息子の“まさかの反撃
しんと静まり返った空気のなか、息子がふいに口を開きました。
「うっまっ!」
唐揚げをほおばってニコニコしている息子。
その様子に、夫が「おいおい」と笑いをこらえ、さやかさんも思わず肩の力が抜けたそうです。
義母の表情がふっとゆるんだ、そのとき。
「茶色のやつが一番うまいんだってば! ミドリのやつ、いつも苦いんだもん!」
何気ないひと言。でも、その声が場の空気をやわらかくしてくれました。
義母は、悪気があったわけではないのです。昔ながらの“見た目を整えるのが当たり前”という感覚が、ずっと染みついているだけ。
とくに人目のある場では、ちゃんとしたものを出すのが礼儀――そんな想いがあったのかもしれません。