筆者の話です。
精算事務の会社で働いていた頃のこと。
課長の何気ないひと言をきっかけに、ちょっとした気まずさが笑いに変わり、職場のルールまで変わった出来事です。いったい何があったのでしょうか?

事務所のコーヒー事情

港にある事務所で、先輩と2人で精算事務を担当していました。
日中は女性2人で作業することが多く、ちょっと一息つきに立ち寄る人も多い職場でした。

来客もあるため、お茶やコーヒーは経費で準備しており、事務所では普段用のインスタントと、お客様用のドリップの2種類を常備していました。

ドリップは、部長や他社の方など【ちゃんとした来客】 のときに出すもので、日常的に顔を出す社内の人や、気心の知れた方にはインスタントを出していたのです。

「ここのコーヒー、おいしいんよ」

本社の課長はよく顔を出してくださる方なので、いつもインスタントをお出ししていました。

ある日もいつものようにインスタントを淹れると「ここのコーヒー、おいしいんよ」 と笑顔で褒めてくださって……。

本当はインスタントなのに、と思いながら、そのことは内緒のままでした。

「えっ、俺、お客様扱いじゃなかったんだ……」

その日、課長と親しい先輩が、ちょっとした悪ふざけで課長に失礼なことを言ってしまい、空気がピリッと張り詰めました。

気まずさを払拭しようと、思わず先輩が
「じゃあ今日は、いい方のコーヒー淹れてあげて!」
と軽口を叩いてしまいました。

「いい方って何?」
という課長の驚いた反応を見て、私たちは「しまった」 という顔に。

それまで出していたのがインスタントだったことがバレてしまったのです。

定番のフレーズに

「えっ、俺、お客様扱いされてなかったのか……」
と落ち込んだようにつぶやいた課長。
そのひと言が逆に場を和ませてくれて、先輩の失言も笑いに変わりました。

それ以来、課長が来るたびに
「いい方にしてな」
と笑いながら指定されるようになりました。

お客様の前でもそのフレーズが飛び出すようになり
「えっ? いい方って何?」
「指定しないとインスタントが出てくるんよ」
「いやいや、もうみなさんドリップでお出ししていますよ」
までがお決まりのやり取りに。

結果として、来客には全員ドリップを出すようになりましたが、その会話から空気が和み仕事の会話もスムーズになることが増えました。
ちょっとした会話をきっかけに、職場の雰囲気まで変わった出来事でした。

【体験者:50代・筆者、回答時期:2025年4月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

ltnライター:Kiko.G
嫁姑問題をメインテーマにライター活動をスタート。社宅生活をしていた経験から、ママ友ネットワークが広がり、取材対象に。自らが離婚や病気を経験したことで、様々な悩みを持つ読者を元気づけたいと思い、自身の人脈や読者の声を取材し、記事として執筆。noteでは、糖尿病の体験記についても発信中。