ママ友のお誘いに、心弾ませる
「お茶でもしない?」と子どもと同じクラスのTくんママからLINEが届きました。
すぐに「お誘い嬉しいです」と返しました。
子どもが入学してから初めてできたママ友との新しい交流に、心がウキウキ。Hちゃんママも一緒だと聞き、さらに広がるご縁がうれしくて、どんな話ができるだろうとワクワクしていました。
慌ただしい毎日でしたが、こうして声をかけてもらえるだけで気持ちが明るくなりました。
私は胸を弾ませながら、待ち合わせのカフェへ向かいました。
心弾むお茶の時間に、曇り始める空気
待ち合わせのカフェには、ふたりもほぼ同時に到着しました。にこやかに手を振るHちゃんママに続いて、どことなく表情が硬いTくんママの姿が目に入ります。私も自然と笑顔になりながら、席に着きました。
Hちゃんママが「新学期って、何かと慌ただしいですよね」とやさしく声をかけてくれました。私はうなずきながらも、向かいでTくんママがじっとこちらを見つめる険しい表情が気になって仕方ありません。
話題もどこかちぐはぐで、私が学校行事の話をしても、Tくんママだけが何か言いたげな様子で、終始浮かない顔をしています。普段なら、もっと自然に会話が弾むはずなのに。胸の中に、小さなひっかかりが生まれました。
怒声と沈黙に挟まれて
私が頼んだ紅茶が運ばれてきたころ、Tくんママが急に声を荒らげました。
「ねぇ! まずは言うことあるんじゃないの?!」
その勢いに、これまでの穏やかな空気が、一瞬で張り詰めたものへと変わりました。何のことかわからず、心臓がドクンと鳴るのを感じながら、「えっ?」と曖昧に声を返しました。
きっかけは、Tくんが下校中にふざけて帰宅が遅れたこと。その理由として、とっさにTくんがTくんママに「R(私の子)が自分とHちゃんに意地悪をした」と嘘をついたのです。それを鵜呑みにしたTくんママは、「あなたのしつけがなっていない!」「親として恥ずかしいわよ」Tくんママは立て続けに私を責め立てます。
さらに、「私はね、別に平気なんだけど……Hちゃんママは怒ってるよね?!」「みんなに謝んなよ!!」と、隣のHちゃんママを巻き込むようにして、私に謝罪を迫ってきたのです。
けれど実際には、Hちゃんママも私と同じく、まったく心当たりがありません。突然名前を出され、戸惑いの色を浮かべたHちゃんママは、思わず問いかけました。
「これって、何の集まりなんでしょうか?」
その言葉をきっかけに、Tくんママはさらに激怒しました。
Hちゃんママは固まったまま口を開こうとせず、視線をさまよわせるばかりです。
曖昧にうなずくこともなく、ただ気まずそうに手元のカップをいじるばかり。その姿からは、「巻き込まれたくない」という思いが痛いほど伝わってきました。
無理に築く関係より、大切なもの
後日、Tくんの嘘が発覚し、ようやく事態は落ち着きました。私は、自分の思い込みだけで罵倒してきたTくんママに不信感しかなく、もう以前のようにママ友付き合いを楽しめなくなってしまいました。
Hちゃんママを責める気持ちはありません。けれど、その場で沈黙して同席していた姿には、やはりどこか違和感を覚えてしまったのです。ママ友という、子どもを介してつながる独特な関係では、自分の立ち位置がわからなくなり、人間関係がぐらりと揺らぐあの感覚が、私はどうしても苦手でした。
だからこそ、痛感しました。ママ友は無理に作らなくてもいい。心の底から信じられるのは、家族で十分だと。そう気づかせてくれた出来事でした。
【体験者:40代・筆者、回答時期:2025年4月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:神野まみ
フリーランスのWEBライター・コラムニスト。地域情報誌や女性向けWEBメディアでの執筆経験を活かし、医療・健康、人間関係のコラム、マーケティングなど幅広い分野で活動している。家族やママ友のトラブル経験を原点とし、「誰にも言えない本音を届けたい」という想いで執筆を開始。実体験をもとにしたフィールドワークやヒアリング、SNSや専門家取材、公的機関の情報などを通じて信頼性の高い情報源からリアルな声を集めている。女性向けメディアで連載や寄稿を行い、noteでは実話をもとにしたコラムやストーリーを発信中。