初めての教室、ドキドキの一歩
保育園時代は、みんな同じような暮らしぶり。共働きママとの付き合いはさっぱりしていて、気楽なものでした。朝はバタバタ、夕方は駆け足。「あー、今日もファンデ崩れてる!」なんて笑い合える仲間がいて、A子さんも肩の力を抜いていられたんです。
ところが、小学校の初めての保護者会は、そんな日常をあっさりと塗り替えました。半休を取り、慌ただしく駆けつけたA子さん。白シャツにスラックス、髪はひとつにまとめたまま、ほとんど消えかけたメイクで教室のドアを開けた瞬間、思わず足が止まりました。
「あれ……?」そこに広がっていたのは、まるで季節の花が咲きそろったような光景。色とりどりのワンピース姿に、きちんとセットされた髪型。春の日差しみたいに明るい雰囲気の中で、ママたちがずらりと並んでいたのです。
華やかな世界に気後れして──
視線の先には、余裕をまとった専業主婦らしきママたち。上品なワンピースに、手の込んだヘアスタイル。ふと気づけば、自分だけが仕事帰りの疲れを引きずったまま。
「あぁ、余裕がないってこういうことか」と思わず心の中でつぶやきました。
保育園ではみんな同じような状況で安心していたのに、小学校はまるで別世界。
次第に緊張が増し、自己紹介では声が震えました。「場違いだな」と痛感しつつ、早く終わってほしいと祈るばかりでした。
完璧ママの意外な本音
保護者会を終え、逃げるように荷物をまとめていたA子さん。そのとき隣の華やかなママが、ぽつりとこぼしました。
「私もギリギリまで仕事してくればよかった……なんか、余計に緊張しちゃって」
えっ? 思わず顔を上げたA子さん。余裕たっぷりに見えた彼女も、同じように不安だったのです。
ふっと肩の力が抜けました。「外からじゃわからないんだな。余裕そうに見えても、同じだったんだ」心がふわりとほどけていきました。
環境が変わっても自分らしく
隣のママのひと言で、A子さんの心がふっと軽くなりました。誰だって不安を隠すために着飾っているんだ。そう気づいたのです。
仕事も家庭も、自分らしさも大事にしよう。次の保護者会はそんな気持ちで向かいました。すると、あの日おしゃれだったママたちも、普段は慌ただしい日々。特別な日だからこそ、おめかししていたとわかりました。
「みんな同じなんだ」——そう気づいたとき、気持ちがふっとほぐれたそうです。忘れていたオシャレ心も戻り、ママとしての忙しさもおしゃれも、少しずつ楽しめるようになったと話していました。
【体験者:30代・会社員、回答時期:2023年8月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:神野まみ
フリーランスのWEBライター・コラムニスト。地域情報誌や女性向けWEBメディアでの執筆経験を活かし、医療・健康、人間関係のコラム、マーケティングなど幅広い分野で活動している。家族やママ友のトラブル経験を原点とし、「誰にも言えない本音を届けたい」という想いで執筆を開始。実体験をもとにしたフィールドワークやヒアリング、SNSや専門家取材、公的機関の情報などを通じて信頼性の高い情報源からリアルな声を集めている。女性向けメディアで連載や寄稿を行い、noteでは実話をもとにしたコラムやストーリーを発信中。