都会の焦燥感
48歳、会社員の私は、東京で管理職として責任ある仕事をこなしていましたが、常に焦燥感に駆られていました。
充実した毎日ではあるものの、満員電車や深夜残業、繰り返される会議に、心身ともに疲弊し、「自分の人生はこのままでいいのか?」と自問自答する日々。
まるで、高速回転するベルトコンベアの上で、立ち止まることすら許されないような感覚でした。
長野での出会い
そんな時、旅行で訪れた長野の小さな村で、私は心の安らぎを感じました。
雄大な自然、ゆったりとした時間の流れ、温かい人々との触れ合い……。
都会では味わえない穏やかな空気に触れ、都会の喧騒から逃れたいという思いを強くしました。
そして1年ほど検討した末、ついに会社を辞めて移住を決意したのです。
現実は甘くない!?
しかし、現実は甘くありませんでした。
慣れない田舎暮らし、都会とは違う人間関係、収入の減少……。
都会でのキャリアや築き上げてきたものを全て捨てたという後悔、そして先行きの見えない不安に押しつぶされそうになり、東京へ戻ろうかと本気で悩んだこともあります。
ハナさんの言葉
そんなある日、近所の畑で農作業を手伝っていた私は、80歳になるおばあちゃん、ハナさん(仮名)と出会いました。
理想どおりにいかない田舎暮らしで疲弊していた私は、ついハナさんに愚痴を言ってしまったのですが、ハナさんはそんな私に
「焦らなくてもいいんだよ。種を蒔いたら、あとは芽が出るのを待つだけ。人生も同じだよ」
と優しく語りかけてくれました。
その言葉は私の心に深く響きました。
都会での生活は、常に結果を求められ、時間に追われる毎日でした。しかし、自然のリズムの中で生きるハナさんの言葉は、私の人生観を変える力を持っていました。
ハナさんの言葉に励まされ、それから5年後、私は地元の食材で健康的な食事を提供する小さな店をオープン。東京で仕事をしていた頃に培ったノウハウと経営センスで、店はたちまち人気店へと成長したのです。
今では長野に移住したことを、心から良かったと思えるようになりました。
ハナさんの言葉は私にとって、新たな人生の指針となったのです。
【体験者:50代・女性・自営業、回答時期:2025年1月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:藍沢ゆきの
元OL。出産を機に、育休取得の難しさやワーキングマザーの生き辛さに疑問を持ち、問題提起したいとライターに転身。以来恋愛や人間関係に関するコラムをこれまでに1000本以上執筆するフリーライター。日々フィールドワークやリモートインタビューで女性の人生に関する喜怒哀楽を取材。記事にしている。