これは筆者の知人A子から聞いたエピソードです。A子は子どもの頃、厳しくも愛情深い母親に育てられました。しかし、ある出来事をきっかけにA子は母に対してわだかまりを抱え、大人になっても素直になれずにいました。そんなA子が、ある日ふとしたことから母の本当の想いを知り……? いったいA子に何があったのでしょうか。

母に厳しく育てられた幼少期

A子は子どもの頃、母親にとても厳しく育てられました。「宿題を終わらせるまで遊んじゃダメ」「礼儀を大切にしなさい」そんな母の言葉に、幼いA子は「どうしてこんなに厳しいの?」と反発することも多くありました。

特に忘れられないのは、小学校の頃の習い事の発表会の日のこと。母は仕事で忙しく、A子が一番頑張っていた発表会に来られなかったのです。A子は、友達の家族が見守る中で一人で発表を終え、帰宅してから母に「どうして来てくれなかったの?」と泣きながら問い詰めました。

母は「お仕事だったの。ごめんね」と短く言っただけ。それ以上の言葉もなく、A子はそれ以来、「お母さんは私のことより仕事のほうが大事なんだ」と思うようになりました。

母の想いを知った日

それから何年も経ち、A子は社会人になり、結婚して子どもを持ちました。母とは普通に会話をするものの、心のどこかにずっと小さなわだかまりを抱えていました。

ある日、実家に帰った際、ふと昔のアルバムをめくっていると、1枚の写真を見つけました。それは、小学生の自分が発表会で演奏している写真。驚いて母に「これ、誰が撮ったの?」と聞くと、母は少し笑いながら答えました。

「会社の休憩時間に抜け出して、こっそり見に行ったのよ。仕事を休めなかったから最後まではいられなかったけど、少しでも見たくてね」

A子はその言葉を聞いて、思わず涙がこぼれました。母はずっと、A子のことを大事に思っていたのに、それを言葉にするのが苦手だっただけだったのです。

やっと言えた「ありがとう」

その夜、帰り際にA子は母に向かって、ずっと言えなかった言葉をやっと伝えました。

「お母さん、あの時見に来てくれてたんだね。ずっと気づかなくてごめん。……ありがとう。」

母は驚いたようにA子を見つめたあと、少し涙ぐみながら優しく微笑みました。

A子はその日、初めて母の本当の愛情を知り、心が温かく満たされるのを感じたのでした。

【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2025年3月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

ltnライター:池田みのり
SNS運用代行の職を通じて、常にユーザー目線で物事を考える傍ら、子育て世代に役立つ情報の少なさを痛感。育児と仕事に奮闘するママたちに参考になる情報を発信すべく、自らの経験で得たリアルな悲喜こもごもを伝えたいとライター業をスタート。