筆者の話です。
空港行きのワンマンリムジンバスに乗ったときのこと。
車内では「両替は事前に」「現金のみ」とのアナウンスが繰り返されていました。
しかし、目的地に到着したとき、ある乗客の行動が運転手の注意を引き──

女性は肩をすくめ、小さな声で答えました。
「すみません。聞いていなくて……」
しかし、運転手は態度を変えません。
「ずっと放送していました! 乗車時にも案内しましたよね?」

女性は視線を落とし、お札を運転手に渡し
「ごめんなさい」
と申し訳なさそうにつぶやきました。

いたたまれない気持ち

私はその様子を見ながら、いたたまれない気持ちになりました。
確かにアナウンスが流れていたのは確かです。
でも、そんなに責めなくてもいいのに。

彼女は旅の疲れでぼんやりしていたのかもしれません。
あるいは、楽しい旅行の余韻に浸っていて、耳に入らなかったのかもしれないのです。

バスの外には、スーツケースを引く人々の姿がありました。
空港に着いた安堵感と、これからの移動への緊張が入り混じる時間です。
きっと彼女も、飛行機の時間を気にしていたのでしょう。

優しい気持ちで

確かにルールは大事かもしれません。
運転手さんにも、安全にかつ運行時刻を守って乗客を目的地まで運ばなくてはならない緊張感や焦りがあったことでしょう。アナウンスをしたのに聞いてもらえなかったことに、苛立つ気持ちも理解できます。
でも、怒りをぶつけるような言い方をしてしまうと、観光客にとって苦い思い出になってしまい、もうこの地を訪れなくなってしまうかも。そうなれば、未来の乗客を失うことにだって繋がりかねません。お互いにとって、損な結果しか生まれないようにも思うのです。

今回の件では、運転手が最初に指摘した時点で、女性は反省の言葉を述べていました。
であれば、二言目は 『次から気をつけてくださいね』 そんな一言で終わらせる選択肢もあったのではないかと感じてしまうのです。

誰だって、うっかり聞き逃すことはあります。
責められるよりも『大丈夫ですよ』 のひと言のほうが、どれだけ救われるのでしょうか。

女性はもう一度謝罪すると深く頭を下げて、おつりを受け取り、バスを降りていきました。
その背中が、なんだかとても小さく見えました。

【体験者:50代・筆者、回答時期:2025年3月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

ltnライター:Kiko.G
嫁姑問題をメインテーマにライター活動をスタート。社宅生活をしていた経験から、ママ友ネットワークが広がり、取材対象に。自らが離婚や病気を経験したことで、様々な悩みを持つ読者を元気づけたいと思い、自身の人脈や読者の声を取材し、記事として執筆。noteでは、糖尿病の体験記についても発信中。