架空のヘッドハンティング
ある日、給湯室の前で、私は一計を案じました。
スマホを耳に当て、わざとらしく大きなため息をつきながら、「実はヘッドハンティングの話が来てるんだよね。今の会社も悪くはないんだけど……」と、給湯室の中にM美さんとN香さんがいることに気付かないふりをして呟いてみたのです。
もちろん、誰とも通話していません。
すると、彼女達の陰口は止み、明らかに私の話を盗み聞きしている様子でした。
私はさらに「年収は今の1.5倍、フレックス勤務、週休3日、こんな好条件、他にないよね」と、魅力的な条件を並べ立てました。
作戦成功!
そしてとどめを刺すように、「今の会社もいいんだけどね……ちょっと、先輩との関係に悩んでて。実はそのことも上司に相談しようと思ってるんだよね」と言うと、M美さんとN香さんは明らかに動揺しているようでした。
翌日から陰口はぱったりと止み、私に以前より優しく、そして、どこか怯えたように接してくるようになりました。
私がいなくなっても仕事的に困るし、陰口を上司に報告されるのも困ると思ったのでしょう。私の作戦は見事に成功したのです。
多少の罪悪感はありましたが、平和な日々を取り戻すことができて、今はホッとしています。
【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2025年1月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:藍沢ゆきの
元OL。出産を機に、育休取得の難しさやワーキングマザーの生き辛さに疑問を持ち、問題提起したいとライターに転身。以来恋愛や人間関係に関するコラムをこれまでに1000本以上執筆するフリーライター。日々フィールドワークやリモートインタビューで女性の人生に関する喜怒哀楽を取材。記事にしている。