親孝行の呪縛
私は、幼い頃から「親孝行しなさい」という言葉を繰り返し聞かされて育ちました。
親の期待に応えようと、良い子でいようと必死でした。
進学、就職、結婚……人生の岐路に立つたびに、親の意見を尊重し、自分の本当の気持ちは後回し。「親孝行のため」そう言い聞かせ、自分の気持ちを押し殺してきました。
いつも親の顔色を伺い、自分の意思で何かを決断することを避けてきたのです。
空虚な40代
40代になった今、親の勧めで見合い結婚した夫との関係は冷え切っています。子どももいないし、仕事にもやりがいを感じません。
まるでロボットのように、ただ生きているだけの日々──。
時折かかってくる母からの電話は、「あんた、最近暗い顔してるじゃない。もっと明るくしなさい。親が心配するでしょ。元気でいることが一番の親孝行よ!」と、変わらず「親孝行」を押し付けてくるばかりで、逆に私を暗い気持ちにさせます。
私のことを心配しているのではなく、自分の老後の面倒を見てもらえなくなることを心配しているだけなのは、分かっていました。
先輩の言葉
毎週のようにかかってくる電話で、私の心はすり減っていく一方でした。そんな時、職場の先輩に相談する機会がありました。
先輩は私の話を真剣に聞いて、「親孝行って、親が喜ぶことだけじゃないと思う。自分が幸せに生きている姿を見せることも、立派な親孝行なんじゃない? それを快く思わない親なら、こっちだって見切りをつけていいんだよ」とハッキリ言ってくれました。
その言葉に、私はハッとさせられました。
そうだ、私は私の人生を生きればいいんだ……! 私の幸せを願ってくれないような親の呪縛に囚われる必要はない!
そう気づいた瞬間、重苦しい鎖から解き放たれたような気がしました。
自分の人生を歩む
それからというもの、私は少しずつ自分の気持ちを優先するようにしました。
母からの電話にも以前のように素直に応じず、「ごめん、ちょっと忙しくて」と途中で切ることも増えました。
最初は罪悪感に苛まれましたが、徐々に心が軽くなっていくのを感じました。
母からの連絡は減って自分の時間を持つことができるようになり、最近ではヨガを始めたり、友達とランチに行ったり、以前は考えられなかったことをするようになっています。
呪縛から解放された私は、やっと自分の人生を歩み始めたのです。
【体験者:40代・女性会社員、回答時期:2025年1月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:藍沢ゆきの
元OL。出産を機に、育休取得の難しさやワーキングマザーの生き辛さに疑問を持ち、問題提起したいとライターに転身。以来恋愛や人間関係に関するコラムをこれまでに1000本以上執筆するフリーライター。日々フィールドワークやリモートインタビューで女性の人生に関する喜怒哀楽を取材。記事にしている。