待合室での喧嘩
先日、総合病院の待合室で診察を待っていた時のことです。
様々な人がいる中、若いカップルの言い争いが始まりました。
彼氏は足をギプスで固めています。付き添いであろう彼女は心なしか顔色が悪く、時おりお腹をさすっているのが気になりました。
喧嘩は次第にヒートアップしていきます。どうやら、男性が他の女性と連絡を取っていたことが原因のようです。
「もう信じられない!」と女性が声を荒げ、男性は「ただの仕事仲間だよ!」と弁明する、まさに修羅場でした。
女性のブチ切れ
「仕事仲間にハートの絵文字送るの? 毎晩電話するの?」と女性は詰め寄り、男性は防戦一方。
「もういい、知らない」と女性がついにブチ切れ、男性は「誤解だって!」と縋り付きますが、「何も信じられない!」と突き放されてしまいました。
周りの視線もどんどん集まり、待合室には気まずい空気が流れました。
中年女性の優しさ
その時です。近くに座っていた上品な雰囲気の中年女性が、静かに席を立ち、カップルに近づきました。「ちょっと、あなたたち。ここは病院よ」と優しく注意します。
そして彼女の方を向き、「お嬢さん、少し具合が悪そうね。冷えているんじゃないかしら」と小さく声をかけました。
中年女性は「これ、よかったら」とバッグから小さな包みをそっと差し出し、「貼るタイプのカイロよ。私もよく使うの」と微笑みます。
彼女は驚いた様子でしたが、お礼を言って受け取りました。
さらに中年女性は彼氏に「あなた、怪我して大変だと思うけど、彼女のことをちゃんと見なさいね。さっきあなたが座った直後、彼女があなたの膝にコートかけてくれてたのに、お礼も言ってなかったでしょ。優しさを当たり前と思っちゃダメよ」と微笑みかけ、自分の席に戻っていきました。
静けさ戻る待合室
男性は初めて彼女の具合の悪さと気遣いに気づいたようで、「ごめん! 具合悪いのについてきてくれてたんだな。大丈夫?」と呟きました。
女性は少し落ち着いたのか、「……うん」と小さく答えました。
中年女性のさりげない気遣いと配慮で、待合室にも静けさが戻りました。
その後このカップルがどうなったかは分かりませんが、誤解がとけて仲直りしていればいいなと願っています。
そして私も、辛そうな人がいたらちゃんと気付いて手を差し伸べられる人でありたいと思いました。
【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2024年12月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:藍沢ゆきの
元OL。出産を機に、育休取得の難しさやワーキングマザーの生き辛さに疑問を持ち、問題提起したいとライターに転身。以来恋愛や人間関係に関するコラムをこれまでに1000本以上執筆するフリーライター。日々フィールドワークやリモートインタビューで女性の人生に関する喜怒哀楽を取材。記事にしている。