たとえ家族でも、相手の考えていることを全て理解するのは難しいですよね。時には誤解したまま、長い時間がたってしまうこともあります。今回は、1年ほど前に夫を見送った知人のエピソードをお届けします。

ノートに記されていたのは

ある日、夫が検査に行っている間に病室を整理していると、机の上に使い古された何冊ものノートが置いてあるのを見つけました。

悪いと思いつつも、こんな目立つところに置いてるんだからとページをめくると、それは夫の日記でした。長年ずっと書き続けていたようで、日々の出来事が綴られていました。

「妻の手料理がおいしかった。幸せだ」
「子どもたちの寝顔が可愛い」
「昇進できた。家族のために頑張るぞ!」

私は胸が締め付けられました。仕事一筋で、家族のことなど考えていないと思っていたのに……。

見舞い客からも意外な言葉が

病室には、夫の元同僚もお見舞いに来てくれました。
彼らが口々に話すのは、「面倒見がよくて仲間を大切にする人」という夫の意外な姿。「子どもが小さい時はよく仕事を代わってくれた」と言う人も。

中には「妻に申し訳ない、老後は恩返ししたい」ともらしていたという話を、こっそり教えてくれる人もいました。

夫は不器用なだけで、本当は家族思いだったことに、私は今さら気付きました。
仕事に打ち込んでいたのも、家族を幸せにしたい一心からだったのです。

最期に言えた言葉

亡くなる前夜、「もっと家族の時間を作ればよかった。すまなかったな」と呟く夫の手を握りしめながら、私は「家族のためにありがとう」と伝えました。

最期にはなってしまったけれど、夫の本当の気持ち、愛情を知ることができて、今は穏やかな気持ちで前に進むことができています。

【体験者:60代・女性主婦、回答時期:2024年12月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

ltnライター:藍沢ゆきの
元OL。出産を機に、育休取得の難しさやワーキングマザーの生き辛さに疑問を持ち、問題提起したいとライターに転身。以来恋愛や人間関係に関するコラムをこれまでに1000本以上執筆するフリーライター。日々フィールドワークやリモートインタビューで女性の人生に関する喜怒哀楽を取材。記事にしている。