真っ白なワンピース
私はアパレルショップで働いています。
その日もいつも通り接客をしていると、一人のお客様に話しかけられました。
「すみません、このワンピースを試着したいんだけど」
お客様が持っているのは、今しがた在庫から店内に出したばかりの、真っ白なワンピースでした。
「この商品、とっても人気なんですよ! さっきやっと在庫が入ってきたばかりなんです」
私はその方に笑顔でご説明しながら、試着室にご案内しました。
口紅のあとが、べっとり!
さて、試着を終えたお客様は、ワンピースを私の手に押し付けてきました。
「なにこれ、ずいぶんきつくて、着づらいわね!」
その商品は、サイド部分にファスナーがついており、着脱しやすいようになっているのですが、どうやらそのファスナーに気づかずに試着をされたとのことでした。
そんな着方をして、首回りが伸びてしまっていないだろうか。
心配になって確認すると――。
「あっ……」
なんと顔周りの部分に、べっとりと口紅のあとが!
「おそれいりますが、商品に口紅がついてしまっておりますので、こちらの商品をお買い上げいただく必要がございます」と、丁寧にお声がけすると、なんとそのお客様は逆ギレ!
「は? 私じゃないわよ! 前に試着した人でしょ?」と強く否定され始めたのです。
そんなはずはありません。この商品は在庫から店頭に出したばかりなのですから。
「少々お待ちください」
とお客様を引き留め、裏で別のスタッフに、試着室の入り口が映る防犯カメラを確認してもらうことに。
大暴れするお客様
映像を確認すると、たしかにお客様が試着室に入る前は、該当部分が真っ白だったことが確認できました。
しかし、映像を見せてご説明しても、お客様は一向に納得されません。
「私じゃないってば!」激昂した彼女は、なんと店内で暴れ始め、商品がかかっているラックやマネキンを次々になぎ倒し始めました。
これには私たちスタッフもびっくり。
路面店で警備員が常駐していないため、慌てて警察に通報しました。
店の伝説に……!?
その後、防犯カメラの映像を確認した警察から、そのお客様のご家族に連絡していただき、破損した商品や設備の代金は弁償していただくことに。
その場にいたスタッフ全員が感情的にならず、冷静に対応したことと、映像という証拠があったことが幸いでした。
職業柄、クレーマーに遭うことも少なくはないのですが、店内で大暴れしたお客様を見たのは初めて。
この出来事は、店舗スタッフの間で「伝説の口紅事件」として語り継がれています。
【体験者:30代女性・アパレル店員、回答時期:2024年6月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:大城サラ
イベント・集客・運営コンサル、ライター事業のフリーランスとして活動後、事業会社を設立。現在も会社経営者兼ライターとして活動中。事業を起こし、経営に取り組む経験から女性リーダーの悩みに寄り添ったり、恋愛や結婚に悩める多くの女性の相談に乗ってきたため、読者が前向きになれるような記事を届けることがモットー。