町内会費を払わないご近所さん
当時Rさんが暮らしていた町は、お祭りや子ども会、老人会など、町で開催するイベントの多い町でした。
地域の防犯・防災対策や地域の清掃活動もしっかりしていて、快適に暮らせる代わりに少しだけ町内会費は高め。
しかし町のために使われているお金だから、と毎月必ず払っていました。
ある年、Rさんは町内会の役員を担当することになり、他の役員と手分けをして町内会費を集めて回らなければなりませんでした。
「あのー、町内会費の徴収に来ました」
「うちは町内会費なんて払わないから!」
Rさんが訪問したのは町内会費を払わないことで有名なHさんの家でした。
「町内会費なんて無駄よ! 帰って!」
Hさんはこの町に引っ越して来てから数十年、1回も町内会費を払ったことがありません。
町内会費は強制ではないので、払う・払わないは自由なのですが、Hさんにはひとつ困ったことがありました。
お弁当をもらおうとして……
「ほら、来てあげたんだからアレ出してよ!」
Hさんは町内会費を絶対に払わないのに、年に2回の町内会の大きな会議には必ず出席するのです。それはなぜかというと、毎回会議の際に町内会費で購入して配られる、お弁当が目当てだから。
Hさんは普段町内会の活動には全く興味がないのに、この会議の日だけは参加して、他の人の分までお弁当を持って帰ってしまうのです。
そのため毎回お弁当の数が足りなくなり、役員は皆困り果てていました。
しかしその年はRさんが良い案を思いついたのでした。
「はい、Hさんのぶんはこちらです」
RさんがHさんに手渡したのは、小さなおにぎり2つに卵焼きと唐揚げが一切れずつ入った小さなお弁当。
「何よこれ!? なんでうちだけこんなショボいお弁当なのよ!」
他の人たちは幕の内弁当で、皆しっかりと自分の分を確保しています。
「その弁当よこしなさいよ!」
他の人のお弁当を奪おうとするHさんに、今まで黙っていた町内会長が口を開きました。
「このお弁当も皆の町内会費で買っているんですよ。町内会費を払っていない人にはそれ相応の物しか渡せません」
冷静にたしなめられ、Hさんはおとなしくおにぎり弁当を持って帰ったそうです。
町内会費を払っていないのになぜお弁当をもらえると思ったのかは謎ですが、ちゃんと払っている人にお弁当が行き渡って良かったですね。
【体験者:40代・女性主婦、回答時期:2024年9月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:齋藤緑子
大学卒業後に同人作家や接客業、医療事務などさまざまな職業を経験。多くの人と出会う中で、なぜか面白い話が集まってくるため、それを活かすべくライターに転向。現代社会を生きる女性たちの悩みに寄り添う記事を執筆。