「謎のあしながおじさん」
私は児童指導員として、家庭環境に問題を抱える子供たちが生活する施設で彼らのサポートをしています。
最近、職場である児童養護施設のAこども園が世間の耳目を集めており、少し戸惑っています。
というのも、このところ毎月多額の寄付金や物資が届き、その差出人すべてが匿名なのです。
もちろん寄付自体はありがたいですし、新品の服や学用品をプレゼントされて嬉しそうな子供たちの顔を見ると、心から嬉しくなります。
「謎のあしながおじさん」というキャッチ―なタイトルで地元でも取り上げられ、このご時世に温かい人もいるものだと当初は話題になっていたのですが――。
世間から疑いの目
あまりにも多額の寄付が毎月匿名で続くものですから、これに対して、だんだんと疑いの目を向けてくる人が増えていきました。
「これは黒いお金で、施設ぐるみでマネーロンダリングをしているのだ」
などとSNSで拡散されているのを見ると、憤りを感じました。
しかしそんな私ですら、もしかしたら? と不安にならなかったわけではありませんでした。
謎の人物の正体は――!?
園に一通の手紙が届いたのは、そんなある日のことでした。
その手紙は「私は幼いころから18歳まで、そちらの園で育った者です」と言う文章から始まっていました。
差出人のB氏は、10年前にA園を卒園後、IT企業を興して成功を収め、富を築いたのだといいます。
「かつて、この施設で過ごした日々が、私の人生の土台となりました。職員の方々の愛情、仲間との絆、そして地域のご支援。今の私があるのは、この施設での経験があったからこそです」
そんな園に恩返しがしたかったものの、不本意に世間から注目されたくはないと考え、匿名での寄付を行ったそう。しかしそのために園がよからぬ形で噂されているのを知り、こうして身分を明かすに至ったとのことでした。
その後
この手紙は、世間に衝撃を与えたのはもちろん、施設の子供たちを大いに勇気づけました。
園の中には自身の人生を悲観する子も多くいましたが、先輩であるB氏が与えられた環境に感謝し、努力を怠らなかった結果、こんなに立派な大人になったという事実に胸打たれたのです。
B氏にならってITの道を志す子供たちが増えたため、園は寄付金を使って人数分のパソコンを購入し、パソコン講師を迎え入れました。
「自分の可能性はここまで」とあきらめてしまった瞬間、将来の可能性は狭まってしまうでしょう。
どんな状況下でも希望を持ち、自分を信じ続けたB氏に勇気をもらったのは、子供たちだけではありません。
生き生きと勉強する彼らに負けないよう、私も久しぶりに、あきらめていた語学勉強を再開したのでした。
【体験者:30代女性・児童指導員、回答時期:2024年2月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:大城サラ
イベント・集客・運営コンサル、ライター事業のフリーランスとして活動後、事業会社を設立。現在も会社経営者兼ライターとして活動中。事業を起こし、経営に取り組む経験から女性リーダーの悩みに寄り添ったり、恋愛や結婚に悩める多くの女性の相談に乗ってきたため、読者が前向きになれるような記事を届けることがモットー。