今回は筆者の知人A子から聞いた、介護の心温まるエピソードをご紹介します。
80代の母の介護
私は当時、夫と母との3人暮らし。大学生の息子たちは2人とも県外で1人暮らしをしていて、お盆期間や年末年始に帰ってくるだけです。
息子たちと一緒に暮らさなくなったのは寂しかったものの、その寂しさを忘れるほどとにかく大変な日々が続いていました。
というのも、80代の母が【認知症】を患い、介護しなければいけなかったから。
その頃は週に3回介護施設に通っていたものの、単身赴任の夫を頼ることもできず、基本的には私がお世話をしなくてはならない状況でした。
「お母さんもうご飯は食べたでしょ!」
「勝手に外に出ないで」
どんどん症状が悪化していき、いろいろなことを忘れてしまう母。
そして介護の疲れか、怒鳴り声で母を叱ってしまう私。しばらくしてから後悔することも少なくなく、当時はとにかく、悲しくて辛くて仕方ありませんでした。
お正月の出来事
そんななか迎えた今年のお正月、夫も息子2人も帰省してきて、久しぶりに賑やかな我が家。
夫に母を任せて息子たちと3時間ほど出かけて帰ってきたら、びっくりする出来事があったのです!
「何このいい匂い」
「もしかして、栗きんとん?」
「おばあちゃんおせち作ったの!?」
なんと夫に無理を言って台所に立った母。足腰が弱くなっていた母は1時間立っているのもやっとのはずだったのに、3時間もかけておせち料理を作ってくれていたのです!
『怪我したら困る』『体調だってよくないのに余計なことを』と、とにかく心配で母を叱ろうとすると......。
忘れぬ愛情
「A子おせち好きだったよねえ」
「さあ、たくさんお食べ」
そう笑顔で話す母に驚きつつおせち料理を見ると、私の好物のものばかり。
『お母さんは全部忘れているわけじゃない』
『ちゃんと覚えてくれていたのね』
そう思うと嬉しくて嬉しくて、どんどん涙が溢れた私。そのままみんなで母のおせち料理を堪能し、幸せなお正月を過ごしました。
大切な思い出
今、母は介護施設に入所し、私とは別々に暮らしています。
もう母の手作りご飯を食べることはできないからこそ、あのおせち料理は一生忘れられない大切な思い出です。
【体験者:50代・女性パート主婦、回答時期:2024年11月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:一瀬あい
元作家志望の専業ライター。小説を志した際に行った女性への取材と執筆活動に魅せられ、現在は女性の人生訓に繋がる記事執筆を専門にする。特に女同士の友情やトラブル、嫁姑問題に関心があり、そのジャンルを中心にltnでヒアリングと執筆を行う。