新人の教育に手を焼く日々
私はIT系の企業に勤める会社員で、半年ほど前から後輩の田中くん(仮名)の教育に手を焼いています。
中でも、田中くんが会議中にこっそりスマホをいじったり、会議の内容が上の空なことが悩みの種です。
その日は、社長も出席する重要な会議がありました。
事前に注意したものの、「社長は俺たち下っ端のことなんて見てないっすよ」と田中くんには全く響いていない様子。不安を抱えたまま会議が始まったのですが……
会議中にスマホゲーム?!
案の定、田中くんはテーブルの下でこそこそとスマホを操作しています。
私は彼の近くに座っていたので、画面に映るカラフルなゲームのプレイ画面が嫌でも目に入り、ハラハラしていました。
その行動を見かねて私がこっそり注意しようとした、その時です。
誤操作でもしたのか、会議室にゲームの効果音が響き渡りました。もちろん、田中くんのスマホからです。
社長の反応は?
すると次の瞬間、社長が静かに口を開きました。
「田中くん、そのゲーム面白そうだな。後で教えてくれないか?」
一瞬で会議室の空気が凍りつきます。まさか社長が注意するどころか、ゲームに興味を示すとは……。予想外の展開に、私は言葉を失いました。
他の社員たちも驚きを隠せない様子で、田中くんを見つめています。
田中くんは顔を真っ赤にして固まっていました。
そんな彼に、社長は追い討ちをかけるように「会議が終わってからでいいぞ」と、にこやかに付け加えました。
社長の対応に心を打たれ……
会議後、社長室に呼ばれた田中くん。てっきり社長直々にお説教をされるのかと思っていましたが、しばらくして社長室から出てきた田中くんの顔は、先ほどの赤ら顔から一転、晴れやかな表情になっていました。
後で聞いた話ですが、実は社長も若い頃はゲーム好きだったらしく、田中くんがプレイしていたのは社長も昔ハマっていたゲームの最新作だったそうです。
田中くんは、下っ端の自分の名前を社長がちゃんと知ってくれていたこと、そして、会議中の失態にもかかわらずゲームの話で気さくに接してくれた器の広さに感動したと話していました。
それからの田中くんはまるで別人のようでした。
「社長に認められる男になりたい」と、以前とは比べ物にならないほど仕事に真摯に取り組むようになったのです。
彼の中で、社長の存在が大きな目標に変わったのでしょう。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2024年11月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:藍沢ゆきの
元OL。出産を機に、育休取得の難しさやワーキングマザーの生き辛さに疑問を持ち、問題提起したいとライターに転身。以来恋愛や人間関係に関するコラムをこれまでに1000本以上執筆するフリーライター。日々フィールドワークやリモートインタビューで女性の人生に関する喜怒哀楽を取材。記事にしている。