ある日、「今日は肉じゃがが食べたい」とリクエストされたSさん。しかし、食卓に出したのは全く別のメニューであるクリームシチューでした。
「えー、全然違うじゃないか!肉じゃがの口になってたのに」
期待していたものを否定され、目に見えて落胆する旦那さん。その姿を確認すると、Sさんは穏やかな、しかし芯のある声でこう言いました。
「あら、ごめんなさい。あなたがいつも『やっぱり別のものがいい』って心変わりするから、私も『やっぱりこっちを作りたいな』って気分になっちゃったの。楽しみにしてたものを、直前でひっくり返されるのって……結構ガッカリするでしょ?」
その瞬間、旦那さんはハッとした表情を浮かべ、言葉を失いました。自分が今まで「気分」の一言で、Sさんの時間と気持ちをどれほど軽視していたか。自分の「食べ損ねた喪失感」を通して、初めて妻の徒労感を自分事として理解したのです。
「……悪かった。準備してくれたものを台無しにするのが、こんなに嫌なことだって気づかなかったよ。もう勝手な心変わりはしないから」
彼はそう言って、深々と頭を下げたそうです。
旦那さんに悪意はなかったのかもしれません。しかし、その「無自覚な甘え」こそが、時に相手を最も深く疲れさせてしまうものです。大切なのは、パートナーが自分のために費やしてくれた時間と労力に、想像力を働かせること。Sさんがユーモアを交えて一線を引いたことで、旦那さんは「当たり前」の裏側にある努力にようやく気づくことができました。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2024年10月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:齋藤緑子
大学卒業後に同人作家や接客業、医療事務などさまざまな職業を経験。多くの人と出会う中で、なぜか面白い話が集まってくるため、それを活かすべくライターに転向。現代社会を生きる女性たちの悩みに寄り添う記事を執筆。