しかし、ある出来事によって親子関係を見つめ直すきっかけになったそうです。
果たして、母と息子の間に何が起こったのでしょうか。
安心していたトイレトレーニングの成功
A子には8歳の長男と3歳の双子の息子がいます。
3人ともわんぱくで、家の中はいつもにぎやか。
毎日ワイワイと楽しそうに遊んでいました。
長男は1歳半でおむつが外れ、トイレトレーニングもスムーズに終了。
それ以来、A子の中で長男の「トイレの心配」はすっかりなくなっていました。
終わらない「ママ、ついてきて」のお願い
ところが、いつの間にか長男はトイレに行くたびに「ママ、ついてきて」と言うように。
A子は最初、「まだ小さいし仕方ないか」と思って付き合っていましたが、8歳になってもその習慣は変わらず。
家事や料理の途中で何度も呼ばれるうち、A子の中でじわじわとストレスが溜まっていきました。
下の子の付き添いは当然必要だと思えますが、長男に対しては「もう1人でできるはず」という気持ちが拭えません。
「どうして?」というモヤモヤが頭をよぎるばかりでした。
包丁を置いてキッチンを離れるたびに、A子は小さなため息が出ます。
長男は、トイレに座ると学校での出来事や好きなキャラクターの話を夢中で始めますが、A子にはそれを聞く心の余裕がありません。
頭の中では、夕飯の支度やその後の入浴、寝かしつけで精一杯。
「早く終わらせてほしい」そう思わずにはいられなかったのです。
思いも寄らない息子の本音
ある日、また「ママ、トイレついてきて」と呼ばれたA子。
渋々ついていったものの、その日はつい冷たい声で「うん」と返してしまいました。
すると長男が、不安そうに「ママ、いる?」と確認してきたのです。
「いるよ」と素っ気なく答えた直後、長男の小さな声が続きました。
「ごめんね、ママ。ボクのトイレ、長くて迷惑だよね。でも、ママと2人で話せるの、トイレのときだけなんだ」
その言葉に、A子はハッとしました。
下の子と楽しそうに遊ぶ長男を見て、「仲間が増えて嬉しいのだろう」と思い込んでいたA子。
しかし、実はその気持ちとともに、彼はA子と2人きりの時間が減ったことに寂しさも感じていたのです。
トイレの付き添いを求めるのは、怖さのせいではなく、母親のA子を独り占めしたかったからでした。
忙しい中でも2人の時間を
A子は胸が詰まる思いで「ごめんね」と謝りたくなりましたが、代わりに「長くないよ。ゆっくりしていいんだよ」と優しく声をかけました。
そして「これからはママと2人でお話しようね」と微笑みかけたのです。
その日から、A子はどんなに忙しくても、長男と2人だけの時間を少しでも作るように心がけました。
たとえ5分でも10分でも、一緒に話したり、ちょっとした遊びをしたり。
そんな中、次第に長男は1人でトイレに行く頻度が増えたそう。
こうしてA子は、長男の「ママに甘えたい」という小さな心の叫びに気づき、2人の絆を取り戻したのでした。
【体験者:40代・女性主婦、回答時期:2024年10月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:Yumeko.N
元大学職員のコラムニスト。専業主婦として家事と子育てに奮闘。その傍ら、ママ友や同僚からの聞き取り・紹介を中心にインタビューを行う。特に子育てに関する記事、教育機関での経験を通じた子供の成長に関わる親子・家庭環境のテーマを得意とし、同ジャンルのフィールドワークを通じて記事を執筆。