Y子の隠されたコンプレックス
会社のお昼休み。同僚のUが話しかけてきた。「ねえ! さっきのY子、ひどくない? Nくんが受ける高校を、駅前に本屋とコンビニしかないとか馬鹿にしてさ」
同僚Uの言葉に、思わず苦笑するA。
同じ同僚でママ友のY子は、Aの息子Nが受験する学校を「町から完全に切り離されてるじゃん。ファーストフード店もなくてかわいそー」「スマホの電波届くの? SNSとかできないんじゃない?」と、散々けなしていたのだ。
「Nくんが受けるの、進学校だって知らないのかな。別に都会じゃなくても青春できるよねぇ」と、笑うU。Aは、周りがどう言おうと息子の選んだ学校を信じていた。
なにより、Aは知っていた。Y子がNの学校を馬鹿にするのは、自分の通っていた高校が不便な田舎町にあったからだ。そのコンプレックスの裏返しだと思うと、呆れて怒る気にもなれなかったA。
そしてNは無事第一志望に合格! 伝統のある学校の制服も、Nにはよく似合っていた。
運命のいたずら? まさかの展開
翌年、Y子の息子Kも受験を迎えた。
なんとKは第一志望の高校に合格できず、Nが滑り止めで受けた高校にしか合格できなかったのだ。
さらにその学校は、Nが通う高校とそっくり! 周囲には田んぼが広がり、駅前にはコンビニしかない。しかもNほどの進学校でもないし、スクールバスもない。電車とバスを乗り継ぎ、自宅から1時間かけて学校に通うことになったK。
それ以来、Y子はKの学校の話に一切触れなくなり、すっかり大人しくなってしまった。Y子のあまりの落ち込みように、さすがに気の毒になったAは声をかける。
「Kくん、学校どう? 慣れた?」 するとY子は「まあ、本人は楽しそうで何よりだけどね」と力なく答えた。
Aは微笑み、「うちの子の学校もさ、静かで勉強に集中できる環境だよ。田舎には田舎のよさがあるんじゃない?」となだめる。Aの言葉にハッとした様子のY子は、ぽつりと「あの時はひどいこと言ってごめん……」とうなだれた。