公民館で開催された手作りアロマキャンドル教室に、赤ちゃんを連れて参加したA。
慣れないワンオペ育児に疲れてしまい、少しでも外の世界と関わりたかったのです。 しかし、その日は思いがけないハプニングに見舞われることに……。
ワンオペ育児の毎日に、癒しを求めて
「アロマキャンドル教室。心にホッと灯火を。子連れOK」
地域の情報サイトを見ていたAは、これだ! と目を輝かせた。慣れない育児、しかもワンオペ。たまには息抜きをしたい! と思ったAは、公民館で開かれるこのイベントに参加することに。
娘を泣き止ませられない私はママ失格?
当日、生後4ヶ月になる娘も連れて参加。
ちょうどウトウトし始めた娘を、設置されているお昼寝スペースに寝かせ、勇気を出して輪の中へ。久しぶりの大人同士の会話に、「来てよかった」と嬉しくなっていた。
ところが、キャンドル作りも佳境に入り、さあここから! というタイミングで泣き出した娘。あわてて娘を抱きかかえてあやすが、一向に泣きやむ気配がない。
焦りと不安が募る中、Aは冷ややかな周りの視線を感じ、心が折れそうになった。
「まだ赤ちゃんなのに連れてくるなんて」
まるでそう言われているようで、Aは娘をぎゅっと抱きしめ、廊下に出た。
どんどん泣き声が大きくなる娘。どうしたらいいか分からず、Aはオロオロするばかり。
すると向かいの部屋の扉が開き、「うるさいんだよ、母親なら泣き止ませろよ!」と、男性の怒鳴り声が響いた。「すみません……」消え入りそうな声で頭を下げる。
私はここに来ちゃダメだったのかな。途端に、鼻の奥がツンとする。Aはこぼれそうな涙を必死に堪えた。
おじいさんの温かい言葉に救われた
その時、近くのソファで本を読んでいたおじいさんが立ち上がるのが見えた。
そして、Aをにらみつける男性に静かに話し始めた。
「なあ、あんただって昔は子供だったろうに。少しの泣き声で目くじらを立てて、みっともない。泣いたり笑ったり、いろんな音を出して大人になっていくもんだろ?」
その言葉を聞いた男性は、Aの泣き顔を見てハッとした表情に。そして気まずそうに「ええ、まあ」と返事をした。
「お母さんも、この子も、必死に生きているだけなんだよ」
そう呟き、おじいさんがAの方へ歩いてきた隙に、男性は逃げるように部屋に戻っていった。
おじいさんは、心の奥に届くような温かい声で「まあ、赤ちゃんは泣くものさ。大丈夫。うん、あんたは大丈夫だから。さっきはつらかったよなあ」と、優しくAに語りかけた。
その語り口があまりにも優しくて、Aの目には、あとからあとから涙が。「あ、ありがとうございます……」と、震える声で伝えるのがやっとだった。
その日の出来事はAの心に温かな灯火をともし、忘れられない一日となったそうです。
【体験者:30代・主婦、回答時期:2023年10月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:N.tamayura
長年勤めたブラック企業を退職し、書くことを仕事にするためライターに転職。在職中に人間関係の脆さを感じた経験から、同世代に向けて生き方のヒントになるような情報を発信すべく、日々リサーチを続けている。