教師として勤務する小学校で、”モンペ”と噂されるママを持つ子の担任になった
私は小学校で働く教師です。私自身にも保育園に通う双子の娘がいますが、会社員の夫は長期の単身赴任中。そのため自分の母親に同居してもらい、家事育児を手伝ってもらいながら日々生活しています。
以前、私が担任をしている学級に、Aというクレーマーで有名な保護者(母親)がいました。
例えば、Aの子供が体調が悪そうだったために保健室に連れて行った教師が「先生が昼間保健室で寝かせたから、その晩は夜更かしして体調が悪化した」と苦情を入れられたり、突然連絡もなく「給食費を払っているのに給食がしょぼい。材料費の明細を出せ」と自ら学校に乗り込んできたり。
そんなことが何十回と続いていたので、教師たちの間でAは「要注意人物」として認識されていたのです。
ある年、私はその子のクラスの担任を受け持つことになりました。覚悟はしていましたが、予想通り「担任の指導が悪いから部屋の片付けができるようにならない」「担任の授業が下手だから成績が伸びない」と連日クレームの嵐。
何度も心が折れそうになりましたが、その度に支えてくれたのは、自宅にいる母でした。
母は以前、高校の教師をしていた経験があり、私の気持ちを汲み取りながら話を聞いてくれたのです。そんな母のおかげで、辛くてもなんとか踏ん張れていました。
しかし、心休まる場所であるはずの自宅で、ある日事件が起こったのです。
自宅にまで押しかけてきた保護者。しかし思わぬ救世主が!
ある晩、自宅で母と娘たちと晩御飯を食べていると、玄関のチャイムが鳴りました。「こんな時間に誰だろう?」出てみると、鬼のような顔をしたAが立っているではありませんか。
玄関のドアを開け、Aに「どうされましたか」と聞いてみると「校長先生に何度も『うちの子の担任を変えろ』と言っているのに一向に変わらないので、担任を降りていただくよう直談判しにきた」というのです。
突然のことで対応に困っていると、私の背後から「あら、〇〇さんじゃないの?」と声が。振り向くと、私の母が立っていました。
母の顔を見るなり「せ、先生……! どうしてここに?」と驚きの声を上げるA。私もその時初めて知ったのですが、なんとAは、母が教師だった頃の生徒だったのです。Aも母もこんな形で再会するとは思わなかったようで、かなり驚いていました。
Aは学生時代、担任だった母にとてもお世話になったということでした。「まさかこんな偶然があるなんて」とつぶやくAに、母は「あなたがよく学校に苦情を入れていることは娘から聞いています。穏やかだったあなたが、一体どうしたの?」と優しく声をかけました。
するとAは泣き出し、「育児について、いつも夫と義母から責められ続けて辛い。学校の先生のせいにして、クレームを入れてしまっていた」と白状したのです。
母はAをなだめながら「他人のせいにしてたって状況は変わらないよ。自分と子供を守るために、一歩を踏み出す努力をしないと」と諭しました。Aはひとしきり泣いた後、母と私に頭を下げて帰っていったのです。
その日から、Aが学校にクレームを入れてくることはなくなりました。そしてその後、Aは「娘と二人で故郷に帰ることになった」と転校していきました。
Aのことを恨んだこともありましたが、今は同じ母親として、子供のために頑張っていってほしいと思っています。
【体験者:30代・女性公務員、回答時期:2024年9月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:Hinano.N
不動産・金融関係のキャリアから、同ジャンルにまつわるエピソードを取材し、執筆するコラムニストに転身。特に様々な背景を持ち、金融投資をする女性の取材を得意としており、またその分野の女性の美容意識にも関心を持ち、日々インタビューを重ね、記事を執筆中。