しかし、知人のN代はかつて「世間体」を最優先した育児をした結果、今では深い後悔の念に駆られているようです。今回は、N代に話を聞かせてもらいました。
世間体を優先した子育てのツケ
N代は60代の女性で、30代の息子T男がいます。
彼女は若いころから「世間体」をとても気にする性格で、「周りからどう見られるか」を何よりも大事にしてきました。
それは子育てにも強く影響していて、息子を育てる際には「世間的に見て立派な学歴や職業」を最優先に考えていました。
たとえば、T男が小学生のころ。
N代は夫の兄弟の甥っ子たちと、T男をいつも比べていました。
ある日、甥っ子たちがT男より少し良い成績を取ったと知ったN代は、「こんな成績じゃ恥ずかしいじゃない」と言い放ち、その日のうちに塾に通わせることを決めました。
「行きたくない」と言ったT男に対しても、N代は「将来のためだから」と無理やり通わせました。
T男の気持ちはまったく考えず、ただ、「良い成績をとること」が最優先だったのです。
息子の夢を押しつぶす親の期待
時が経ち、T男が大学受験の時期に差し掛かったころ、彼にはずっと抱いていた夢がありました。
それは幼いころから大好きだった車の整備士になること。
整備士になるために大学へ進学せず、専門学校へ行きたいとT男は考えていました。
しかし、そのことをN代に打ち明けると、彼女は強く反対。
「作業着を着て働くなんて、そんなのダメ! 大学に行って、スーツを着るようなちゃんとした仕事につかないと、恥ずかしい思いをするのは自分よ!」とT男を説得し、無理やり大学に進学させました。
N代にとって、整備士という職業は世間体が良くないと考えられていたのです。
それでもT男はどうしても車に関わる仕事がしたくて、大学卒業後に自ら求人を探し、ついに自分の夢を叶えるための職を見つけました。
しかし、N代はまたしても、「そんな仕事、世間に顔向けできないわ」と反対し、T男にその仕事を辞めさせてしまったのです。
N代は息子の幸せよりも、自分の中で描いた「理想の息子像」を押しつけ続けました。
夢を奪われた息子の迷走
その後、N代は自分のコネを使って、T男を中小企業の営業職に就職させました。
「これで安心」とN代は思いましたが、T男はその仕事にどうしても馴染めず、心の中に深い不満を抱えていました。