私達は日ごろ時間の大切さを考えることなく過ごしがちではないでしょうか。
私はある人の言葉で時間の重みについて考えさせられました。
これは筆者が介護施設で働いていた時に体験したエピソードです。

自宅での転倒がきっかけで有料老人ホームに

早くに夫に先立たれた83歳のヒサエさん(仮名)は30年以上自宅で一人暮らしをしていました。

気ままな一人暮らしを楽しんでいましたが、自宅で転倒し骨折。
後遺症のため足が不自由になり、車いす生活になってしまいました。

一人暮らしのヒサエさんは自宅での生活が難しくなり、子ども達の勧めで私が勤務していた有料老人ホームに入居してきたのです。

困った入居者様

ヒサエさんは常に身だしなみに気を遣う人です。
ホーム内でもいつも明るい色のブラウスを着用し、お化粧も欠かしませんでした。

認知症の症状もないヒサエさんは、入居した時から「ホームの食事は口に合わないから違うものを用意して」や「つまらないから外出させて」などとスタッフに要望が多く、私は内心「困った入居者様だな」と思っていました。

ですがヒサエさんの言葉で、ハッとさせられる出来事があったのです。

若くて先のあるあなた達にはわからない

その日もヒサエさんが「ホームの外に食事に行きたい」と言い出し、私たちスタッフでなだめていました。

するとヒサエさんがこのように言ったのです。

「83歳の私は10年後に元気でいられるかどうかわからない。スタッフのあなたたちと1日の時間の重みが違うの。1日1日が勝負なの。元気なうちに好きなものを食べたり、行きたいところに行きたいと思う私の気持ちなんて、若くて先の長いあなた達にはわからないのでしょう」

1日の時間の重み

私はヒサエさんの言葉から、ヒサエさんが1日1日をとても大切に思っている心の内を知ったのです。

ヒサエさんの気持ちまで思いやることなく、「困った入居者様」だと思った自分を反省しました。

持病を持つヒサエさんの食事を変えることはできなかったし、外出の希望もスタッフの人数が足りないことから叶えることはなかなかできませんでした。

ですがヒサエさんの気持ちに寄り添い、できる限り満足できる時間を過ごせるように、スタッフが一丸となって対応しました。

高齢者の方が感じている時間の重みを教えてくれたヒサエさんの言葉は、介護の仕事を離れた今でも私の心の中に深く残っています。

【体験者:50代・筆者、回答時期:2024年8月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

Itnライター:K.Sakura
セラピスト・販売員・介護士の職を通じて常に人と関わる職務経験から得た情報を記事化するブロガーを志す。15年ほど専業主婦兼ブロガーとして活動するも、モラハラな夫からから逃げるために50代にして独立。母としては、発達障害のある子どもの育児に奮闘。自分の経験が同じような状況に悩む人の励みになって欲しいと思い、専門ライターに転身。アラフィフでも人生やり直しができることを実感。