T子の新しい生活と日常
郊外の閑静な住宅街に、夫と息子3人と私の5人家族で引っ越してから1年が経ちました。
小学1年生になる息子は、人通りの少ない通学路を歩いて約40分かかる小学校に通っています。
入学したばかりのころは、給食もなくお昼過ぎに下校してくるため、私は下の2人の息子を連れて途中まで迎えに行き、息子と合流してから自宅に戻ることが日課となっていました。
見慣れない男性との出会い
ある日、いつものように息子を迎えに行き、自宅に向かって歩いているとサングラスを掛け、大きなリュックを背負った若い男性が前から歩いてきました。
この辺りでは見慣れない若い男性──。
この住宅街は高齢者世帯が多く、若者が昼間から外を歩いているのを見るのは珍しいことでした。
息子たちは初対面の人を含め、誰に対しても元気に挨拶をする子どもたちです。この若者に対しても例外ではなく、
「こんにちは!!」と大きな声で挨拶しました。
若者は、〈にっこり〉と「こんにちは」と返してくれました。
その笑顔に息子たちは大喜びし、何度も「こんにちは! こんにちは!」と連呼し始めました。
私はこれ以上しつこくすると若者に失礼だと思い「挨拶は1回でいいんだよ」と息子たちをたしなめました。
しかしそれでも息子たちは挨拶を続けたため、私は申し訳なく思い「すみません」と平謝り。
すると若者は、〈にっこり〉と会釈をしながら去って行きました──。
静かな街に突如現れたパトカー
自宅に戻って数分後、ふと窓の外に目を向けると、サイレンを鳴らさずに4台のパトカーが家の前を走っているのが見えました。
「何事か」と胸がざわついた私。
窓を開けて外の様子をうかがっていました。しばらくすると数人の警察官が1人の男性を取り囲みました。
その男性をよく見ると、なんと先ほど息子たちが「こんにちは」と挨拶を交わした若者だったのです。
私は「えっ!? さっきすれ違った人? 何が起きてるの!?」と息を呑みました。若者は警察官といくつか会話を交わした後、まもなくパトカーに乗せられ去って行きました──。