認知症は進行性の病気で、治療や家族のサポートがあっても、重度になると運動や発語が困難になってしまうことがあります。今回は筆者の知人Yさんから聞いた、認知症で発語障害になった祖母の介護をしていたときに起こった、心温まる出来事のお話です。
「はじめまして!」
前にお世話になっていたヘルパーさんが家庭の事情で来られなくなったため、新しく派遣された介護ヘルパーさんがやってきました。ヘルパーさんは、背が高く、メガネをかけた男性でした。
「よろしくお願いします」
ヘルパーさんが明るく祖母に挨拶をすると、今までぼんやりとしていた祖母の表情が変わりました。
「〇〇さん……!」
「え、おばあちゃんがしゃべった!!!」
傍にいたYさんとYさんのお母さんはビックリ。
「久しぶりにおばあちゃんの声聞いたね」
「うん、〇〇さんって確かおじいちゃんの名前だわ」
おばあちゃんが呼んだ名前は、Yさんがまだ幼い頃に亡くなった祖父の名前でした。
ほとんど祖父の記憶がなかったYさんでしたが、以前写真で見た祖父は背が高く、メガネをかけていたことを思いだしました。
「おじいちゃんのこと思い出したんだね」
「そうなんですね! お声が聞けて良かったです」
ヘルパーさんはそう言って祖母ににっこりと笑いかけました。
祖母の声を聞いたのはそれが最後になりましたが、それからそのヘルパーさんが来る日は、祖母がいつもより少し嬉しそうな様子。
言葉こそ発さないものの、目尻や口元に、うっすらと笑顔を浮かべているのがわかりました。
親切で明るく、とても良くしてくれるヘルパーさんだったため、祖母が亡くなるまでそのヘルパーさんに来てもらっていたそうです。
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:齋藤緑子