子どもたちの集まる家
当時Sさんの家には、小学2年生だったSさんの子どもと同じクラスの子どもたちや、ご近所で仲の良い子どもたち、そしてそのママたちがよく集まっていました。
「さあみんな、おやつだよー!」
みんなでワイワイするのが好きなSさんは、学校が終わると集まってくる子どもたちやママ友たちのためにお菓子を焼いておもてなし。
「さすがSさん、このクッキーも美味しい!」
子どもと一緒にやってきたママたちは、子どもたちが遊んでいる間におしゃべりに花を咲かせます。
「2組の先生が産休に入るらしくて、また新しい先生が来るんだって」
「へえ、そうなの? いい先生だといいね」
「そういえばあの子、2組の子だよね」
話の流れで、ママ友が子どもたちの中の1人を指さします。Sさんと他のママ友たちの子も別のクラスでしたが、その子だけがいつもママ同伴ではなく、ひとりで遊びに来ている子でした。
「そうそう、Yちゃんよ。1年生の頃に同じクラスで、ずっと仲良くしてるの」
「そうなんだ? Yちゃんのお母さんってどんな人?」
「実は全然会ったことないのよね……」
Sさんの家に遊びに来る子はほとんどがママと一緒に来るのに、YちゃんのママだけはSさんの家に来たことがありません。
「ふーん、普通は子どもがよく遊びに来てたら挨拶くらい来るもんじゃないの?」
ママ友はクッキーをつまみながらそう言いました。
「まあ、うちは色んな人が来るから別にいいよ。子どもたちも楽しそうだしね」
「えー、でも非常識じゃない?」
「いいのいいの、うちは出入り自由だし」
「そっか、Sさんって心広いよね」
突然現れたママ
Yちゃんの話をしていた十数分後、突然Sさんの家のインターホンが鳴りました。
「はーい!」
Sさんが玄関のドアを開けると、そこには見知らぬ女性が1人立っていました。
「いつも子どもがお世話になってすみません、Yの母です」
「あ、はじめまして……」
すごいタイミングだ、と思いながらSさんはYちゃんのママを家に招こうとしましたが、Yちゃんのママはそれを断って手土産だけを渡しました。
「これからもよろしくお願いしますね」
そう微笑んで帰っていったYちゃんのママ。見た目はごく普通の女性で、特に変わったところのない人でした。
「なんか会話聞かれてたみたいだよね」
後ろからこっそり見ていたママ友が言いました。
「ほんとに、すごいタイミング」
Yちゃんのママから渡された手土産は、Sさんの家から5分ほどのところにある洋菓子店のチョコレートでした。
「じゃあ、みんなで頂こうか」