飲食店では食中毒や異物混入を防ぐため、帽子を着用するなどの決まりが厳しいお店が多いですよね。当然のルールですから、そこで働く人にはきちんと服装規定を守って欲しいものです。今回はそんなルールを無視して勤務する困った人に遭遇した経験のある私の知人、Cさんに聞いたお話です。

帽子の着用が義務

当時Cさんは、チェーン展開しているお手頃価格のレストランでパートをしていました。

「皆さん、来月から制服が変更になります」
ある日、店長がスタッフを集めて言いました。最近他の店で料理に髪の毛などの異物が入っているというクレームが相次いだため、帽子の着用が義務付けられることになったというのです。

「何この帽子、ダサいわねー」
真っ先に口を開いたのは、このお店がオープンした当初から働いているというベテラン女性パートでした。

「こうやって、髪の毛が外にはみ出ないようにして被ってください」
店長が皆の前で帽子を被ってみせると、ベテラン女性はますます渋い顔になります。
「やだ、髪がめちゃくちゃになっちゃうじゃない」
「そう言われても義務ですから、よろしくお願いしますね」
ベテラン女性は不服そうな顔で、帽子を手に取りました。

帽子を被らないパート

「確かにちょっと、ダサいよね」
「うん、顔が丸出しになるのが恥ずかしいわ」
Cさんは他のパートたちと口々に帽子の愚痴をこぼしましたが、被らないわけにはいきません。仕事が始まる前に丁寧に髪をまとめ、帽子の中に入れ込んでお店へ出て行きました。

「あれ、〇〇さん(ベテラン女性パート)帽子被ってなくない?」
Cさんたちより少し早い時間に出勤していたベテラン女性が、帽子を被らないままお店に出て注文を取ったり、料理を運んだりしていることに気付きました。

ベテラン女性はかなり明るい茶色に染めたミディアムヘアで、全体をヘアアイロンで巻き、ふんわりとボリュームを出してからスプレーで固めてキープをするといったように、かなり髪型にこだわりのある女性。

毎日セットをするのに時間がかかるのだと、Cさんはベテラン女性から聞いたことがありました。

「帽子被るとぺちゃんこになっちゃうのが嫌なんだろうね……店長来たらどうすんだろ」
Cさんたちはきっと店長が来たら注意をしてくれるだろうと思っていました。

「〇〇さん、帽子お願いします」
「えー、髪型が崩れるから嫌です!」
昼から出勤してきた店長が何度注意をしても、ベテラン女性は頑として帽子を被ろうとはしません。店長はまだ若い男性で、Cさんたちの店に異動してきたばかり。

「異物混入のクレームなんて出たことないですよ! この店のことは私が一番よく知ってますから! 」
このようにベテラン女性にきつく言われると、どうやら気が弱いらしい店長は何も言い返せません。ベテラン女性はそれをいいことに、その日は帽子を被らずに勤務し続けました。