セレブな幼稚園で
当時Nさんは子どもをお金持ち、つまりセレブな家庭の児童が多い幼稚園に通わせていました。
保護者はIT企業の社長や医師、弁護士に有名なスポーツ選手など、テレビで見たことのある人も多く、一般企業のサラリーマンを夫に持つNさんはちょっと浮いた存在でした。
しかし幼稚園じたいは環境も良く、先生たちも皆お高くとまっているところがないので、子どもは楽しく通園しています。
「Nさん、このあと何か予定がおあり? 皆さんとカフェに行くのだけど良かったらご一緒しない? 」
ある日Nさんが子どもを幼稚園に送っていくと、同じクラスのママ友にお茶に誘われました。
誘ってきたのは幼稚園でも有名なセレブママのTさん。元モデルで、ベンチャー企業を経営している旦那さんのいる華やかな女性でした。
「ごめんなさい、これからパートに行かなくちゃいけなくて」
「そう、残念ね……」
誘いを断り、Nさんはパート先の喫茶店へと急ぎました。
パートが終わった後に……
Nさんは幼稚園のすぐ近くにある古い喫茶店で、短時間だけのパートをしていました。
その喫茶店はいわゆる純喫茶で、地元でもかなり歴史のあるお店。落ち着いた雰囲気なのでおしゃべりがしたいママには向かないため、ママ友の集まりで利用されることはほぼありません。
「いらっしゃいませー」
お昼がすぎ、パートの上がり時間が近づいてきた頃にひとりの女性がお店に訪れました。
「あ、Nさん! 私ブレンドひとつ。そろそろ上がりでしょ? 飲んだら一緒にお迎え行こうよ」
その女性はNさんが幼稚園で一番親しくしているママ友でした。
そのママ友も例にもれずセレブで、その地域にある大病院の若奥様でしたが、全く気取ったところがないことや、無類のコーヒー好きでNさんのパート先の常連であることから仲良くしていました。
「Tさんのお茶会には行かなかったの?」
「うん、Tさんの選ぶカフェってあんまりコーヒー美味しくないんだよね。私はここのコーヒーが一番好きだしさ」
ママ友はケロッとした顔で答えました。
「さ、お迎え行こ!」
パートが終わり、ママ友と2人連れだって幼稚園に向かおうとしたときでした。
「あらNさん! こちらでお仕事されてたの?」
ふいに声をかけられて振り向くと、そこには数人のママ友を引き連れたTさんが立っていました。
「ええ、ここでパートしてますよ。良かったら一度…… 」
一度コーヒーでも飲みに来てくださいと言おうとしたNさんを、Tさんがさえぎりました。
「喫茶店でパート? 私イヤだわ、同じ幼稚園のママ友がウエイトレスをしているなんて。そんなにお金に困ってらっしゃる人と、仲良くするのが恥ずかしい!」
「はあ!?」
Tさんは憐みの目でNさんを見ながら、取り巻きのママ友たちと目くばせをしています。
「ねえ、皆さんも恥ずかしいわよねえ? 申し訳ないけど今後のお付き合いは控えさせていただきたいわ」
驚きのあまり言葉も出ないNさん。すると後ろから、突然仲良しのママ友が口を開きました。