駅前の踏切で
Tさんはまず、電車で3駅ほどのところにあるお気に入りのカフェに行くことに決めました。
そして鼻歌まじりに駅前の踏切を渡っていた時でした。
「きゃっ!」
ピンヒールのかかとが踏切の溝にすぽっとハマってしまい、Tさんの足首がグキっと嫌な音を立てました。
「いたたた」
Tさんは踏切の真ん中で、尻もちをついて倒れ込みます。
「や、やばいかも」
慌てて立ち上がろうとしましたが、どうやら足首を捻挫してしまったらしく、足首が痛くて立ち上がれません。しかも、ヒールはすっぽりと溝にはまり込んでしまったまま。
「ぬ、抜けない……」
痛みをこらえてヒールを抜こうとしましたが、思いのほかがっちりとはまり込んでいるため全く抜ける気配がありません。
命の危機!
「おい、危ないぞ」
「あの子やばくない?」
周りからそんな声が聞こえたかと思うと、踏切の遮断機がカンカンと音を立てて閉まり始めます。
「どうしよう……」
焦ってヒールを抜こうとしても、全くびくともしません。Tさんは背中に冷たい汗が流れるのを感じました。
「靴を脱げ!」
ふいに男性の声が響き、Tさんは足首を押さえてすぽんと靴を脱ぎました。するとその瞬間に数人の手が伸びてきてTさんを踏切から引きずり出してくれたのです。
そしてその直後、電車が轟音をたててTさんのいた場所を通り過ぎていきました。
「た、助かった…… ありがとうございます!」
Tさんを助け出してくれたのは、踏切の近くにいた人達でした。電車が通り過ぎた後にわざわざヒールを溝から抜いて、裸足のままのTさんに履かせてくれた人もいます。
ヒールはすでにボロボロになっていましたが、そんなことよりも命が助かったことに安堵して、Tさんはそのまま踏切の近くに倒れ込んで気を失ってしまいました。
その後病院に運ばれたTさんは捻挫の治療を受け、家族にぺたんこのサンダルを持ってきてもらって帰宅しました。
命が助かって本当に良かったですね。まさかピンヒールが命を脅かす存在になるとは。踏切ではヒールが挟まらないように気をつけましょう。
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:齋藤緑子