アレルギーは適切な対策や治療をしなければ、命に関わります。しかしひと昔前は「無理にでもアレルギー物質を身体に入れればそのうち慣れる」など危険な治療法があったそうです。今回はそんなアレルギーへの古い考えを押し付けられた経験のある私の知人、Kさんから聞いた体験談です。

「今日は食パン持って行くからね!」
義母から予告の電話があり、翌朝息子は秘策のために近くのパン屋へ急ぎました。

「さあ、今日こそは食べてもらうわよ!」
義母が持ってきた食パンを受け取り、Kさんは「切ってきますね」と言って台所へ。

「美味しそう~、いただきます!」
小学生の娘がそのパンをトーストして皆に配り、全員同時に食パンにかぶりつきました。

パンを食べた結果……

「うっ……!」
「く、くるしい」
食パンを食べて間もなく、Kさんも旦那さんも子どもたちも、喉を押さえて苦しみだし、床に倒れ込んでしまいました。
「み、みんなどうしたの!?」
義母はKさんたちの様子に大慌て。救急車を呼ぼうとスマホを手に取りました。
「はい、そこまで!」
「はーい」
旦那さんの号令で、皆何事もなかったように起き上がります。
「あのさ、母さん。俺たち小麦粉のパン食べるとこうなっちゃうんだ。だから悪いけど、もう持ってこないでくれ」
「え、だ、大丈夫なの? 一体どういうこと?」
旦那さんは一口かじったパンを見せて答えました。
「これ、アレルギー対応の店で買った米粉のパン。母さんのパンは台所にあるよ」
息子の秘策とは、皆で義母のパンを食べたふりをして大げさに苦しみ、アレルギーの恐ろしさを知ってもらおうというものでした。

そのために近所のパン屋で米粉のパンを買って来て、パンを切るタイミングで義母のパンとすり替えたのです。

「ごめんね。ばあちゃんが悪かった。ほんとにどうなるかと思った、無事でよかったよ」
義母は涙を流して謝り、パンを持って帰りました。

その後義母は米粉のパンを焼いてくれるようになり、今では時折一緒に朝食をとるようになったそうです。

アレルギーを克服してほしいという義母の気持ちはありがたかったのですが、アレルギーの恐ろしさを知らないと、大変なことになることも伝わって良かったですね。

※食物アレルギーは命に関わる可能性もある重大な生理現象です。重大な認識で接してください。

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

ltnライター:齋藤緑子