他人の朝食を食べる迷惑客
「先ほどお客様には別のテーブルをご案内しておりますが……」
スタッフの声に顔を上げた女性は、ケロッとした顔で答えました。
「私はここがいいから、移動してきたのよ!」
なんとその女性は別の席に案内されたのにもかかわらず、スタッフの目を盗んで勝手にOさんたちの席に移動したというのです。
「そうおっしゃられましても、困ります。お席のご希望は事前に仰っていただかないと」
「私も今からどけって言われても困るわよ」
女性はOさんの子どものために用意されていたクマの形のパンケーキに、グサッとフォークを刺して口に運びました。
「そ、それはうちの子どものための朝食です!」
旦那さんが女性に詰め寄りましたが、女性は知らん顔をしてパンケーキをもぐもぐと食べ続けます。
「知らないわよそんなの。何、お金払えばいいんでしょ? あんたたちは別の席で用意してもらえばいいじゃない。とにかくここは私の席よ!」
困り果てたスタッフは一旦その場を離れ、責任者らしき男性を連れて戻ってきました。
代わりに案内されたのは……
「お客様、一番景色の良い席が空きましたのでこちらへどうぞ」
責任者らしき男性はOさん家族を連れ、追加料金が必要な個室へと案内してくれました。
「この部屋、お高いんじゃ」
「お詫びの気持ちです、この度は本当に申し訳ございませんでした! またご利用いただけますようお願いいたします」
「い、いえそんな……」
数人のスタッフに深々と頭を下げられ、Oさんたち3人はそのままその個室で朝食をとることになりました。
「わあ、豪華!」
「すごいね、ママ!」
すぐに提供された朝食は、先ほど用意されていた朝食よりグレードアップされたものでした。
3人は先ほどの女性客のことはすっかり忘れて、豪華な朝食を食べながら美しい庭園を楽しみました。
帰り際にレストランのスタッフに聞いたところ、先ほどの女性客は以前に数回このホテルに泊まったことがあるものの、毎回他の宿泊客とトラブルを起こすので有名な人のようでした。
さすがに今回のことがきっかけで、出禁になったそうです。
いくらお客さまだからといっても、なんでもワガママが通ると思ったら大間違いですね。
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:齋藤緑子