テレビで知っているお店が紹介されていると、「前から知っていたんだよ」とちょっと得意な気分になってしまいますよね。しかしテレビで紹介され、お客さんが増えたことがきっかけで、お店が残念な方向に変わってしまうこともあります。今回は私がよく通っていたお店に起きた体験談です。
近所のお店がテレビに
当時私が住んでいた家の近所に、安くて美味しい定食屋さんがありました。
夫婦2人とバイトの女の子だけの小さなお店でしたが、女将さんのさっぱりした性格が気持ち良く、月に1~2回はそこで食事をするほど気に入っていました。
その店がある日、テレビの情報番組で取り上げられ、連日行列ができるように。
「しばらくは行けないな、ほとぼりが冷めたら行こう」
行列を横目に通り過ぎ、好きなお店がテレビで紹介されるのは嬉しいけれど行けなくなるのは困るな、と思っていました。
女将さんにばったり
味の良さからかお店の人気は長く続き、テレビで紹介されてから半年以上も行列は絶えませんでした。
「また並んでる……」
そう思いながら店の前を通ると、何か足りないものがあったのか、女将さんが財布を持って店から出てくるところに遭遇しました。
「あら、お久しぶりね」
相変わらずの、さっぱりとした口調で女将さんは声をかけてくれました。
「ご無沙汰してます。お店、すっごく繁盛してるんですね」
「そうなのよ、もう毎日忙しくって」
「また落ち着いたら食べに行きます」
「そうねえ」
私の言葉に、女将さんは急に笑いだしました。
「うちの店の味が良いって評判が上がっちゃって。こんな値段で提供するのはもったいないって言われてんのよ。セレブな人も来たし、もう庶民の店じゃないのよね」
「え?」
「だからごめんねー、余裕があったらまた来てね」
女将さんは鼻を膨らませ、バカにするようにフンっ! と笑って去っていきました。