治らない怪我の真相
Fさんのコルセットはしばらくすると外せるようになりましたが、まだ首が痛むのか、Fさんは分厚い首用のサポーターをつけることにしたようでした。
「首、まだ痛むの? 大変ね」
「そうなの、後遺症がひどくて……」
怪我のことを聞かれるたびにFさんは辛そうな顔をするので、ご近所さんは皆、その怪我の回復を祈るばかりでした。
その数か月後、Hさんは首に何も巻いていない状態のFさんを見かけて声をかけました。
「あれ、首治ったの? 良かったね!」
「あ、巻くの忘れてたわ」
Fさんは首に手をやって笑いました。
「実はもうとっくに治ってるんだけど、サポーター巻いてると保険金が貰えるのよね。ほんといいお小遣いになったわー」
「え?」
「うふふ、絶対ナイショよ」
それって詐欺にならないの? と聞きたかったけれど、あまりにFさんがケロッとしているので、Hさんは何も聞くことができませんでした。
それからHさんはなんとなくFさんとは距離を置くようになりました。まだFさんは首にサポーターを巻いて外出していましたが、それを見る度になんだか複雑な気持ちになってしまったからです。
上品でお金持ちそうなFさんがそんなことをするなんて、とガッカリした気持ちもあったのでしょう。
それからしばらくしてHさんは、Fさんがサポーターを外したままスポーツクラブに出かけていたのを保険会社の人に見られたせいで保険金の給付が止まったと風の噂で耳にしました。
また、不正に請求していたのがバレ、その分を返還請求されているとのこと。
怪我をした人を救うためのシステムを、悪用するといつかかならずバチが当たるということですね。
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:齋藤緑子