夢のマイホーム
Tさんは当時、旦那さんと小学生の子どもとの3人暮らし。
新興住宅街にマイホームを購入し、引っ越したばかりでした。
「夢のマイホームだね…… これから子どもにもお金がかかるし、早くローン返せるように頑張ろうね!」
Tさんは周囲の家に引っ越しの挨拶をした後、近くのスーパーにパートの面接を受けに行きました。
Tさんの家の周りは住宅ばかりであまりお店や会社がなく、自転車で10分のところにあるスーパーが唯一パートできそうなお店だったのです。
そして面接は無事に合格。Tさんは引っ越し後の家の片づけを終えてすぐに働き始めたのでした。
ご近所さんの目が……
「Tさん、こんにちは。どちらにお出かけ?」
ある日、Tさんが自転車でパート先に向かう途中、ご近所に住んでいる、同世代の主婦のひとりに声をかけられました。
「パートです! すぐそこのスーパーで」
「え、パートなさってるの? 大変ね……」
その女性は眉をひそめて言いました。
「大変? まあ、仕事覚えるまでは大変かもですね。それじゃ!」
Tさんは軽く会釈をして再び自転車を走らせました。
実はTさんが引っ越した新興住宅街は、同世代の夫婦が多いものの、どこか上品でお金持ちそうな家ばかり。よく道端で井戸端会議をしている奥様方も、誰一人パートに出ている様子はありませんでした。
「パートしてるってそんなに珍しいのかな」
Tさんは首を傾げましたが、とりあえず気を取り直して仕事に集中することに。
見下されてる?
それから数日後、Tさんがスーパーで品出しをしていると、ご近所の若奥様たちが連れだってスーパーに買い物に来ているのが目に入りました。
「あらTさん、こんにちは。お仕事頑張ってるのね」
「ええ、まあ」
忙しく手を動かしているTさんを見て、若奥様のひとり、先日Tさんに声をかけてきた女性が言いました。
「大変ねえ、ほんと。そんなにあくせく働かなきゃいけないなんて、ご主人大丈夫?」
「はあ…… まあ、大丈夫です」
すると他の若奥様たちも口々に、「ホントに大丈夫?」「仕事はしていらっしゃるの?」「大変ねえ」と口元に笑みを浮かべながらTさんに言いました。
「すみません、仕事中なんで」
Tさんはそう言ってその場を離れました。
どう考えても見下されているような態度に腹は立ちましたが、パートに出て何が悪い、と開き直ることにしたのです。
それからTさんがパートに出勤するたびにその若奥様軍団はやってきて、「大変ね」「かわいそう」と繰り返すのでした。