最初は、普通の常連のお客さん
私がテイクアウト用のお惣菜さんで、アルバイトをしていた頃の話です。お店は、広い道路に面していて、大学生の私と年配のパートの女性達が働く小さな店でした。
和気藹々とした和やかな職場で、年下の私はパートさんに可愛がってもらいながら、平穏に過ごしていました。
ある日、若い男性がおかずを買っていきました。レジには私が立っています。
その男性は翌日も、その翌日もやってきました。常連さんはそれなりにいたので、最初は気に留めることもありませんでした。
ふと、店の外を見たのが始まりだった
ある日レジに立った時、ふと店の外を見ると、どこからか視線を感じました。すると、あの常連の若い男性が、手前のビルの陰からこちらじっと見つめていることに気がつきました。
あまりに異様な様子にびっくりした私は、とっさに店の奥に身を隠しました。
不思議に思ったパートさんが「一体何してるの?」と声をかけてくれました。
私は、男性がこちらを見ていてびっくりしたから、思わず逃げてきたと説明しました。
怪訝に思ったパートさんが、代わりにレジに立って様子を見てくれました。店の奥から様子を見ていると、男は店を一度素通り。レジの方に顔を向けて、こちらの様子を伺いながら通り過ぎていきます。
パートさんは、「確かになんだか様子が変だね。今日はバックヤードで別の仕事をしていな。」とあまりに怖がる私とレジ係を代わってくれました。
ちょっと自意識過剰だったかなぁ、とパートさんに申し訳なく思いながら、その日はバイトを終えました。
しかし、帰り際にそのパートさんが衝撃の事実を教えてくれました。
「あの男の人さ、何度も店の前を往復してて、こっちを見てたよ。ついに入ってきたと思ったら、あなたは今日いないのかって聞かれたわ。あなた、あの男性と知り合いなの?」
その話を聞いて、私は恐怖で凍りついてしまいました。男性とは、会話らしい会話はしたことがありません。店員として、最低限の言葉しか交わしていませんでした。
すっかり怯えた様子の私に、店長やパートさんはなるべくレジではない仕事をまわしてくれるようになりました。
しかし、お店はお惣菜屋さんです。バックヤードでできることはちょっとした雑用だけ。メインの仕事はレジ係や店頭への品出しです。いつまでも隠れているわけにはいかないのです。
店長やパートさんが気にかけてくれてはいましたが、ついにあの男性に対面することになり……。
ついに来た! 恐怖のお誘い!
その日は突然、男性が店にやってきました。逃げる間もなく、男性は商品を選び、私のレジへやってきました。すると、おもむろにハガキを取り出しました。
「あの、僕、絵を描いてるんですけど、今度このギャラリーで展覧会があるので……良かったら来てもらえませんか?」差し出されたハガキは招待状でした。
恐怖のあまり、「ハイ……」と答えるしかなかった私。
男は「良かった! まあ、これだけ何度も惣菜を買ってるから、流石に来てもらわないと困りますけどね。」と笑い、満足そうに帰っていきました。
私は固まって動けなくなってしまいました。