仕事の愚痴から全てが始まった
友人の職場にいるA子は、途中入社の30代独身女性。身なりもきちんとして、仕事もそれなりに早い。ところが、慣れてくると、仕事の愚痴を周囲に漏らすようになった。
気心の知れた相手に仕事の愚痴をこぼすことは、よくあること。誰もがわかっているからこそ、初めは座席が近い友人が、彼女の愚痴に相槌を打ちながら付き合っていた。
それが恐ろしいことになるとは、まだ誰もわからなかった。
否定、否定、すべて否定
しばらく愚痴を聞き続けてから、友人も同じようにA子に愚痴を吐いてみた。
「〇〇さん、仕事が遅くて。もう少し早く書類提出してくれたら……」するとA子は言葉をかぶせて反論してきた。
「っていうか、あなたが手伝ってあげばいいのよ!」う……うん。人の愚痴はバッサリ切り捨てる。
そのうち、A子の愚痴に「相手方のこういう事情もある」と口をはさめば、「それはありえない!」と否定されるように。
結局、何を言っても、「ってか」「違う」と全否定されるのだ。
しかも、冗談も全く通じない。一度冗談でA子をからかうと、「失礼だわ!」と怒られてしまったのだ。
毎日、毎日、デスクで繰り広げられるA子の愚痴を聞き続けているうちに、友人は体調が悪くなってきたと言う。だから、A子の愚痴が始まれば、さりげなく場所を移動するようになった。
友人が聞かなくなった後は、別の人がA子の聞き役になるしかなかった。
もしかしてエネルギー吸われてる?
A子の愚痴の犠牲になるのは、優しく、誰かの役になりたいと思えるような、いい人たち。ある日、友人はA子の聞き役をしている数人に、「しんどくない?」と聞いたという。
「……しんどいです」「すごい負のオーラが伝染します」口々に不満が出た。やはりそうだった。そこで、皆、できるだけ、話に相槌を打たないようにした。
すると、恐るべし。A子はがっつり聞いてくれる相手がいなくても、独り言のように変わらず愚痴を吐きながら仕事をするように。みんな聞いていないフリをしていても、ちゃんと聞いている。聞こえてしまう。この部署だけみんな押し黙り、どんより空気が淀んでいった。
そして、誰もいなくなった
そして、友人はついにその職場を辞めることに。同じくその部署の人たちも数人去ることになった。みんなすっかり顔色も沈み、ネガティブなオーラを放っていた。A子にエネルギーを吸われ、病んでしまっていたのだ。
その後の風の便りによると、A子は転職したらしい。でもきっと、今も誰かが彼女の犠牲になっているんだろう。気づかないのは本人ばかり。
どうか、こんなモンスターにはくれぐれもご注意を。
Itnライター:田中つぐみ