年老いた自分の親の介護を、嫁ひとりに押し付ける旦那さんは少なくありません。それが熟年離婚の原因になることもあるそうです。今回は介護が原因で熟年離婚に至った私の知人、Sさんのお話です。

非協力的な旦那

Sさんは当時、Sさん夫婦と旦那さんの両親と2人の子どもという6人で暮らしていました。子育てで大変な時、旦那さんの両親が助けてくれたこともあり、Sさんと義両親の中はとても良好。

ただ旦那さんだけがパチンコや釣り、ゴルフといった自分の趣味を優先する性格であるため、子育てには非協力的でした。

「子育てはお前の役目だろ。俺が稼いでるんだから文句言うな」
たまには子育てに協力して欲しいと言っても、旦那さんはそう言って聞く耳を持ちません。
「ごめんね、勝手な息子で」
「お義母さん……」
旦那さんとSさんが言い合うたびに、義母はそう言ってSさんを慰めてくれました。

義両親の介護

数年たち、子どもたちが大きくなって手がかからなくなってくると、今度は義両親が相次いで体調を崩し、介護が必要になってしまいました。

Sさんは今までの感謝の気持ちから、思うように体の動かない義両親に精一杯尽くしました。

旦那さんは自分の両親であるのにもかかわらず、「壊れていく親を見たくないんだ」などと言ってあいかわらず非協力的で、子どもたちですらSさんを手伝ってくれるのに何もしようとしません。

次第に帰る時間も遅くなり、時にはお酒や香水の匂いまでさせて帰ってくるようになりました。

「Sさん、ほんとうにありがとうね……」
感謝の気持ちを述べて義父が亡くなり、数年後義母も後を追うように亡くなりました。

熟年離婚!

義両親を見送ってから、Sさんは旦那さんに離婚届を突きつけました。

「もう私の役目は終わりました。子どもを連れてこの家を出ます。離婚してください」
「はあ!? 離婚したところでお前1人でやっていけるのかよ? 今まで俺が養ってやってたんだぞ! これからまだまだ俺に尽くしてもらうからな」
旦那さんは頑として離婚を承諾せず、離婚届をビリビリに破いてしまいました。

「お母さん! 私は大学も行かなくていいし、すぐに仕事見つけるから離婚しなよ 」
「うん、3人で働いたらなんとかなるよ!」
子どもたちは破かれた離婚届のかけらを拾い集めながら、Sさんを慰めてくれました。2人ともSさんについてくる気満々で、Sさんを応援しています。

「あんたたち、ありがとね……」
Sさんは感動して涙を一筋こぼし、肩を震わせました。
「お母さん……」
「……なんちゃって、あはははは!」
Sさんは顔を上げ、大声で笑いだしました。

「え、なに!? 泣いてるんじゃないの?」
「泣くワケないじゃない! これ見て!」
Sさんはタンスの引き出しから通帳を3冊取り出して子どもたちに見せました。

「すごい金額……どうしたのこれ?」
それぞれの通帳にはかなりの金額が記入されています。それは家族3人が暮らすのに十分な額でした。
「おじいちゃんとおばあちゃんが、生前贈与してくれたの! 大学でも専門学校でも、好きなとこ行けるわ、あんたたちに不自由はさせない!」

長年にわたる介護のお礼として、義両親はかなりの金額をSさんに遺してくれていました。なんと旦那さんが相続したのは、今住んでいる家と土地だけ。

Sさんと子どもたちは荷物をまとめて家を出て行きました。

別居してから数年間、旦那さんは離婚に応じませんでしたが、成人した子供たちに説得されてやっと離婚届に判を押したそうです。

心をこめて介護をしたSさんの気持ちが、義両親には伝わっていたのですね。

ltnライター:緑子