パートをバカにする社員
Tさんは当時とあるスーパーでレジ打ちのパートをしていました。
その店はパートが多く、正社員は店長ともう一人の女性社員のみ。
夜のシフトには学生アルバイトも数人いましたが、日中はほぼパートだけで成り立っているような状態でした。
「パートさん! これ品出ししといて」
女性社員はフルタイムでバリバリ働くシングルマザー。仕事はできるのですが、パートの主婦たちを個人名で呼ばず、「パートさん」と呼んでくるのであまり好かれてはいませんでした。
「私にも名前あるっつーの」
「ほんと、なんであんな偉そうなんだか」
陰でそう文句を言う人も少なくありません。
「すみません、子どもが熱を出したので今日は早退させてください…… 」
ある時、小学生の子どもがいるパートの1人がそう言うと、女性社員は眉を吊り上げてこう言いました。
「ちょっと、パートとはいえ仕事に対する自覚が足りないんじゃない!? これだからパートは嫌なのよ、旦那の収入があるからって仕事を甘く見て」
「そんなつもりじゃ…… 」
「子どもがいたって私みたいに経済的に自立してる人もいるんだから、もっと責任感持って欲しいわね! 」
そう言われた女性は、すぐにパートを辞めてしまいました。
社長の息子が来店
そんなこともあり、女性社員に対するパートの不満は募るばかり。
その女性社員がフルタイムで働けているのは実家の両親に子どもを任せっきりにしているからだということを皆知っていました。
「皆と同じ子持ちなのに、なんであんなにパートにだけ厳しいんだろうね」
Tさんがパート仲間に言うと、予想外の答えが返ってきました。
「あの人ね、社長の息子を狙ってんのよ。だからなんとかこの店の成績上げて、自分の印象を良くしようとしてるみたい」
Tさんが勤めているスーパーは、同じ市内に3店舗を構えるチェーン店。社長は地元の名士で、その息子である副社長は女性社員と同世代のバツイチ独身男性でした。
「あ、副社長来たよ」
その日はちょうど副社長がお店の様子を見に来る日でした。
「副社長、お疲れ様です!」
いつになく笑顔で副社長を迎える女性社員。
「ああ、お疲れ。パートの皆さんもお疲れ様です。これ、差し入れ」
副社長は爽やかなイケメンで、いつも店に来るときはお菓子などの差し入れをくれるのでスタッフからは好かれていました。
副社長のキツーイ一言!
「いつもありがとうございます」
ちょうどその時スタッフルームで休憩中だったTさんがお菓子の箱を受け取ると、女性社員が飛んできました。
「ちょっと、ちゃんと副社長からの差し入れって書いといてよ? 仕事も満足にできないのに、こういう時だけ出しゃばるんだから」
「え…… 」
お菓子の箱を受け取っただけでそんなことを言われ、固まってしまうTさん。
「だいたいパートなんて短時間ちょろっと仕事して、家帰ってテレビ見ながらボリボリ煎餅かなんか食べてるんでしょ? 気楽でいいわよね、ほんと。こっちは毎日気を張り詰めて仕事してるっていうのに」
あまりにもひどい暴言に、思わずTさんも他のパート仲間も思わず沈黙してしまいました。
「ちょっと君、それはないよ」
沈黙を破ったのは副社長です。
「この店はパートさんたちが元気に働いてくれてるからやっていけてるんだよ。皆家庭もあって、子どももいて、忙しい日々の中ひとりひとりがこの店を支えてくれてるんだ。そりゃ社員の仕事も大変だろうけど、だからといってパートさんたちにそんなこと言う権利は君にはないよ。謝りなさい」
「……すみません、でした」
女性社員は副社長にガツンと叱られ、急にしゅんとしてしまいました。
その後女性社員がパートに偉そうに何か言うたびに、「副社長に言いますよ」と抗議するパートが増え、いつしか女性社員はすっかりおとなしくなってしまったとのこと。
ちなみに副社長はその女性社員ではない、他店の女性社員と再婚をしたそうです。自分をよく見せようとしてやったことが、意外な結果を招いてしまいましたね。
ltnライター:緑子