疎遠になったママ友からのDM
当時Tさんは一軒家の購入をきっかけに、生まれ育った町から隣の町に引っ越したばかり。Tさんの実家では両親と弟が小さな美容院を経営しているので、2ヶ月に1回は帰省もかねて弟に髪を切って貰っていました。
「今回もいい仕上がり! 弟よ、いつもありがとう」
そんなコメントとともに、Tさんは自分の後ろ姿の写真を弟に撮ってもらってSNSにアップしました。最近美容院が増えて顧客が減っているらしいので、少しでも宣伝になればと思ったからです。
するとしばらくして、そのSNSに1通のDMが届いたのです。
「久しぶり! 最近会ってないけど、元気にしてる?」
それは地元でできたママ友からのDMでした。
実はそのママ友、仲良くなった人の家に上がり込んでお菓子やお酒をたかったり、ランチ会では会計時に財布がないと騒いで他の誰かに立て替えて貰い、そのお金を返さないなど、かなり図々しいママとして有名な人でした。
Tさんはそのママ友とは特別仲が良かったわけではなく、共通のママ友を経由してSNSのみで繋がっている関係。
また子どもが小学校に上がるタイミングで引っ越しをしたので、Tさんはそのママ友には引っ越したことすら伝えていませんでした。
「どうしたんだろう、急に」
さして親しくもないのに、急にDMが来るなんてと思いつつ、「元気にしてるよ」とだけ返信したTさん。すると間もなく返事がきました。
「髪の毛いい感じだね! 弟さんはどこの美容院にいるの?」
SNSで宣伝した甲斐があったのかと思い、Tさんは嬉しくなって店の名前を伝えました。
すると、目を疑うようなメッセージが返ってきたのです。
まさかの発言
「そうなんだ! ねえ、Tさんの友達って言ったら安くしてくれる? 友達価格でお願いしたいんだけど!」
友達って、あんた友達じゃないじゃん! Tさんはそうツッコミたいのを堪え、冷静に返信することに。
「うーん、そういうのはやってないかな。私もお金払ってるし」
「えー、ケチくさいのね!」
「ごめんねー、それじゃあまた」
そう切り上げようとしたTさんですが、ママ友はなおも食い下がります。
「ねえ、本当に無理? 弟さんに聞いてみてよ! なんならカットモデルになってもいいよ、タダでやってくれるんでしょ」
「カットモデルも間に合ってるみたいだから…… 」
「そんなこと言わずに、お願い!」
Tさんはうんざりして、そのままSNSを閉じました。ママ友とはもう住んでいる町も違いますし、偶然会うこともほぼないので、放っておいたらそのうち諦めるだろうと思ったのです。
弟の店に突撃
それからしばらくは毎日のように催促のDMが来ていましたが、Tさんは完全スルー。するとある時からぱったり連絡が途絶えたのでした。
2ヶ月後、また弟に髪を切って貰うために実家に帰ったTさんは、弟の口からとんでもないことを耳にしました。
「なあ姉ちゃん、〇〇(ママ友)さんって知ってる? 」
「知ってるけど、もしかして来たの?」
「うん、ちょっと前にね」
「どうだった?」
「いやもう、ありえないっしょ」
弟さんはママ友が店に来た時のことを話し始めました。
「いらっしゃいませ、ご予約のお名前をお伺いしてもよろしいですか」
「あー、予約はしてないんだけど」
なんとママ友は予約をせず、飛び込みでやってきたといいます。たまたまお店が空いていたので、そのまま席にご案内。
「あの、私〇〇っていうんですけど、お姉さんから聞いてませんか? 」
「え? 何も聞いてませんけど」
「私お姉さんとはとっても親しくしてるんです。だからここで友達価格で髪を切って貰えるって聞いてきたんですよ。いくらぐらい割引してもらえるんですか?」
弟はその時点で頭の中に? マークが浮かんだそうです。
「いや、そういうのやってないんですけど…… 」
「おかしいわね、やってくれるってDMで言ってたわよ!」
「DM? ちょっと見せて貰っていいですか」
「あら、間違えて消しちゃったわー」
ママ友はそう言ってとぼけて見せたので、弟はますます怪しいと思い、カマをかけてみることにしたのでした。
「もしかして、一昨日くらいに姉貴んちに遊びに来てたお友達ですか?」
「そうよ! あの〇丁目のマンション」
「えっと…… じゃあ姉貴の友達じゃないっすね。姉貴もうそのマンションから引っ越してるんで」
「ええっ!?」
「引っ越したことも知らないし、SNSのDMでしか連絡取り合ってないなら、そんなに親しくないんじゃないですか? 来てくれたのはありがたいっすけど、友達価格では無理ですね」
弟がキッパリ言うと、ママ友は真っ赤な顔をして帰っていったそうです。
「なんかごめんね、宣伝になるかと思ってSNSに載せたのが間違いだったわ」
「いや、いいんだよ。あの投稿見たって言って来てくれた奥さんが何人かいたし。でもその人たち、姉貴が引っ越したことも知ってたけど友達価格なんて全然言わなかったよ」
SNSを見てきてくれた人の名前を聞くと、皆Tさんが本当に親しくしていたママ友たちでした。
その後店に例のママ友が現れることはなく、TさんのSNSからもいつのまにか名前が消えていたそうです。
友達のふりをしてなんとか美容院代を安くあげようとしたのでしょうが、友達かそうでないかは案外簡単にバレてしまうものですね。
ltnライター:緑子