バイト先の居酒屋でいつも一人でお酒を飲む女性客。毎日彼女の好きな日本酒と冷奴を出す店長に「あのお客様、毎日来てくれますね」というと「視えるの?」と言われたのです。果たして彼女の正体は・・・。

いつも同じ席に座る女性客

私のバイト先の居酒屋は小さなお店ですが、いつも常連さんで込み合っています。料理長兼店長と私の2人しかいないので、毎日忙しいけど楽しく仕事をしています。

そんな忙しい居酒屋の常連さんで、いつもカウンター席の奥に座る女性のお客様がいます。注文は毎回同じ、日本酒と冷や奴。私はそのお客様が店長の仕事を見つめている光景が好きです。なんだかとっても楽しそうに、料理が出来上がっていくところを見ているのです。

店の中が騒がしいときもいつも同じ時間にやってきて、一人佇み店長の仕事をみてお酒を飲んでいます。

視えるの!?

ある日店長に「あのお客様、毎日来てくれますね。」と言いました。すると店長は驚いて私を見て「視えるの!?」と聞いてきたのです。「え? 普通に視えますけど??」と答えると、なんとその女性客は、亡くなった店長の奥様だったのです。

店長と奥様は、若い頃バイト先の居酒屋で知り合い、結婚しました。店長は自分のお店を出したくて、居酒屋で修行して奥様と二人で居酒屋を開業。そして間もなく奥様は重い病気が発覚し、亡くなったそうです。

店長は奥様と一緒に居酒屋をやっていくのが夢だったのですが、あまりのショックに店をやめることに。しかし、閉店する最終日に奥様がやってきたのです。奥様は「店を辞めないで。ここは私の居場所だから」と、店長に伝えました。

ちゃんと支えるから

店長「でも一人では難しいよ」

奥様「大丈夫。ちゃんと支えるから」

店長は閉店を撤回し、居酒屋を継続することを決意。幸いにも店長が借りていた居酒屋の物件は、次に借りる人が決まっていなかったので、スムーズに継続できました。私がバイトを始めたのは再オープンしてすぐのときでした。もしかしたら、私は奥様に導かれてここへ来たのかなと感じています。

奥様の店長を見守る眼差しはとても温かく、店長は今日も自信ありげに腕を振るっています。

ftnコラムニスト:鈴木まさ美