愛人という言葉だけでも不快な気持ちになったり、拒否反応が出たりする人もいるかもしれませんね。配偶者に浮気癖がある人は特にその傾向があるようです。今回はそんな愛人に間違われてしまった私の友人Fさんのお話です。
ftnews.jp

海外赴任から帰国

Fさんは旦那さんの海外赴任をきっかけに入籍し、そのまま異国の地を新居として東南アジアの国での新婚生活が始まりました。

3年後、日本に帰国できると会社から辞令があり、まだ仕事の残っている旦那さんを異国に残し、Fさんひとりで住む部屋を探すために先に帰国することになりました。

「先に帰って、色々揃えておきますね」
「ありがとう。不用心だから、旦那がいつまで帰ってこないとかはあまり人に言わないようにね。仕事が忙しくて毎日夜遅く帰ってくるから、近所の人にはあまり会うことがないって言っておいた方がいいよ」
「わかりました」

Fさんは帰国後、しばらく実家に身を寄せながら部屋を探しました。そして少し広めのファミリー用賃貸マンションを契約したのです。

引っ越しのご挨拶をしてから……

「こんにちは、隣りに越してきたFと申します」
入れ物がオシャレなクッキーの詰め合わせを手に、Fさんは両隣と真上・真下の部屋にご挨拶に行きました。
「あら、おひとり?」ファミリー向け物件のせいか、ほとんどの部屋でそう聞かれました。
「主人は仕事が忙しく、帰りが遅いもので。これからどうぞよろしくお願いします」
旦那さんに言われた通りに答えて、Fさんは部屋に戻りました。

それから数日後、洗濯を干しにベランダに出たり、買い物などで玄関ドアから出たりすると、Fさんはマンション内の女性から自分が沢山の人にじろじろと見張られているような気持ちになりました。それも、敵意を含んだまなざしで。

実際、小さい子供を遊ばせながらロビーで立ち話をしている若いお母さんたちも、Fさんが通ると皆一斉におしゃべりをやめ、じろじろとFさんの動作を見つめてくるのです。

「変なマンションだなあ」
Fさんはそう思いながらも、間取りや広さから考えるとここが一番良かったのだからと自分に言い聞かせました。

それからもFさんに対する、敵意のようなじろじろ見は続きました。じろじろ見てくるわりに、話しかけてもそっけないか無視されるかのどちらかです。

Fさんはとりあえず旦那さんが帰ってきたら相談しようと思い、あまり人目につかないようひっそり暮らしていました。

いよいよ旦那が帰国

そして待ちに待った、旦那の帰国の日がやってきました。
「あなた、おかえりなさい!」
「ただいま、待たせて悪かったね」
空港で待っていたFさんは、久しぶりに自分と話をしてくれる人がいることにほっとしました。

2人でマンションに戻ると、いつも夜に帰ってきているはずのFさんの旦那さんが、今日は突然昼間に現れたことに驚いたのでしょうか。

マンションの前でタクシーを降りてから、マンションのエントランスに入るまで、旦那さんはしばらくその周辺にいる女性たちの注目の的でした。

「あの、もしかして本当に旦那さん?」
たまたま近くを通りかかった、Fさんの隣人女性が尋ねます。
「はい、本当に旦那ですよ。今まで海外にいたんですが、防犯の関係上黙っておくように妻には言っていたんです。ご挨拶が遅れて申し訳ありません」
すると、隣人女性が焦ったように言いました。
「ごめんなさい! てっきり愛人なんだと思って、奥さんにつらく当たってました!」
「あ、愛人?」
「ここってファミリー向けでしょ、女の人がひとりで暮らすには広すぎるし家賃もそこそこするし……それなのに優雅にひとりで暮らしてるから、愛人に間違いないってみんなで話してたの 。主婦の敵だって」
隣人女性はFさんを愛人だと勘違いして、今まで敵視していたことを丁寧に詫びました。
「まさか普通の奥さんだとは知らずに……ごめんなさい」
「いえいえこちらこそ、主人が後から帰国することを言わずにいたんですから」

無事に周りの女性たちの誤解がとけ、Fさんは晴れやかな気持ちで、このマンションの住人としての新生活が始まるような気持ちになったそうです。

ftnコラムニスト:緑子