「人の噂も七十五日」と言いますし、やがて忘れ去られるものだとわかってはいても、やっぱり根も葉もない噂を立てられるのは迷惑でしかありませんよね。今回は無責任な人に妙な噂を立てられた経験のある私の知人、Nさんのお話です。
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突然広まった噂

Nさんは当時結婚10年目で、旦那さんと子どもとの3人暮らし。家電量販店やドラッグストア、衣料品量販店などが集まった大型のショッピングセンターでパートをしていました。

「ねえNさん、ちょっといい? 」
仲良しのパート仲間が休憩中に、Nさんを普段あまり人が通らない裏通路の隅っこに呼び出しました。
「なに、どうしたのー? 」

パート仲間は妙に真剣な顔で、言葉を選んでいます。
「Nさんなんか、悩んでることあるんじゃないの」
「え? 悩み? 」
急にそう言われて、Nさんは首を傾げます。
「うーん、急に言われても」
「話してごらん、何でも相談乗るから」

そのパート仲間はNさんより少し年上で、姉御肌のとても気のいい女性でした。しかし相談に乗るからと言われるほどの悩みがないので、Nさんは困ってしまいました。
「急にどうしたの? 悩みなんかないよ」
「本当? 」
「本当よ」

するとパート仲間は、この店の中でNさんに関する噂が流れていると教えてくれました。
「どんな噂? 」
「それが、言いにくいんだけど…… 」
パート仲間が言うには、Nさんがあやしげな若い男に、銀行の袋からお金を出して渡しているのを見た人がいるというものでした。

その男は借金取りというには少し親し気な感じだったので、もしかしたら若い不倫相手にパート代を貢いでいるのではないか?という噂もあるというのです。

事実無根

「なにそれ、ひどい! 」
Nさんはあまりにひどい噂に驚き、開いた口がふさがりません。

「でも男にお金渡してたっていう噂が妙にリアルだったんだけど、渡したりしてないよね? 」
「してないよ、なんで私のパート代を人にあげなきゃいけないの……って、渡してた! 」
「えっ、誰に渡したの!? 」
Nさんは急にそのシーンを思い出し、頭を抱えてうずくまりました。

「弟……」
Nさんの職場であるショッピングセンターのすぐ近くに、Nさんの弟と母が2人で暮らしている実家があり、身体の弱ってきたお母さんの代わりに弟がよく食料品や生活必需品の買い物に来ているのです。

その日は昼休み中にバッタリ弟に会ったことや、Nさんがちょうどパートの給料日だったこともあり、銀行でおろしてきたばかりのお金を袋から出して「何か美味しいものでも買って」と弟に渡したのでした。

噂を流したのは誰?

「不倫だなんて事実無根だし、ひどい! 」
「その時誰と昼休み一緒だったの」
パート仲間に聞かれて、はっとしたNさん。

その日はなぜかいつもNさんにだけ嫌味を言ってくるパート仲間、Tさんと昼休みが重なって、休憩室に2人でいるとまた嫌味を言われるのが嫌で銀行に行ったのでした。
「えーと、Tさんだ」
「じゃあTさんがNさんと弟さんを目撃して、変な噂流したんじゃないの?他の人は休みか仕事中かで、目撃しようがないもん」
「確かに……」

その後Nさんはすぐに店長のところに行き、自分に関する根も葉もない噂が流れていることや、確証はないけれど噂の出どころがわかっていることを伝えました。
Tさんと直接対決するよりは、店長を通した方がもめごとにならないと考えたのです。
「僕の耳にも噂が入ってきてたよ。根も葉もない噂だろうから気にしてなかったけど、不確かな情報で妙な噂を流すのはやめるよう、全員に朝礼で伝えるから安心して」
「ありがとうございます! 」

店長が朝礼で言ってくれたおかげで、Nさんの噂はすぐに消えていきました。

噂の出どころであるTさんは、誰もいないところで店長からきつく叱られたのがショックだったのか、噂が消えるとほぼ同時に退職したとのことです。まさに自分が蒔いた種ですね。

ftnコラムニスト:緑子