実はメイク美人
Eさんは当時小学生の子どもが2人いる主婦で、ご近所でも評判の美人ママ。周りの人たちからは「子どもがいるように見えない」「若くてキレイ」などといつもすれ違うたびに褒められていました。
しかし旦那さんと2人の子どもたちは、Eさんが美人だ、キレイだと褒められているのを見る度にニヤニヤしてしまうのです。
それは何故かというと、実はEさん、「整形メイク」と言って良いほどメイク前とメイク後の顔が違うから。
Eさんは結婚する前にデパートの美容部員として働いていて、その時にみっちり仕込まれたメイクのテクニックを駆使し、美人ママの顔を作っていたのです。
「ママって実は超地味顔だもんね、私もだけど」
メイクに興味を持ち始める年頃の娘からはそう言われるほど、Eさんのすっぴんはごくごく普通の、あっさりした顔立ちです。
「地味な方がメイクが映えるのよ、変身しがいがあるから。将来が楽しみね」
Eさんはメイクをすること自体が大好きなので、常日頃から新しいテクニックやアイテムを取り入れて、メイクの研究をしています。
挑戦者あらわる……
そんなある日、EさんはPTAの集まりで出かけた小学校でいきなり知らない女性に呼び止められました。
「あの、Eさんですよね?」
「はい、そうですけど」
その女性はEさんより少し若いくらいで、明るい茶髪をクルクルと巻き、メイクもネイルも盛り盛りな派手目の美人でした。
小学校にいるからには誰かのママであると思われましたが、子どもがいるようにはとても見えません。
「なーんだ、近所で評判の美人ママって聞いたから顔見てみたかったんだけど、普通じゃん。私の方がずっと美人だわ」
「……悪かったわね、普通で。失礼します!」
別にEさんは自分で美人ママであると名乗っている訳ではありませんので、むっとしてその場を離れました。
しかしその日から派手ママはEさんの周りをうろちょろするようになり、スーパーや小学校の用事で出かけるとよく道端で顔を合わせるようになりました。
「また会ったわね、Eさん。今日も私の方がキレイみたい」
「はいはい、ごきげんよう」
派手ママは会うたびにEさんに何か言おうとしますが、Eさんはそれを全てスルー。しかし少し気になったのは、派手ママが連れて歩いている子どもが全く彼女に似ていないことでした。
「旦那さんに似たのかな? まあどうでもいいや、うちも似てないし」
ついに爆発
「ねえEさん、娘さん全然Eさんに似てないけど、旦那さん似なの?」
ある日、また街角でばったり会った派手ママにそう言われて、Eさんもついに堪忍袋の緒が切れました。
「何なのよあなた? そんなに人の顔ばっかり見て。そんなに気になるなら、ちょっとうちの前で待ってなさい!」
Eさんは派手ママを家の前で待たせて中に入ると、自慢の整形メイクをきれいさっぱり落とし、つるんとした素顔で派手ママの前に現れました。
「ほら見なさいよ、これが素顔よ。美人ママなんかじゃないの、整形メイクよ。あなたの勝ちってことで、もういいでしょ?」
派手ママは大声で笑うはずだと思っていましたが、予想に反して驚いた顔のまま固まっています。
「すごい…… 」
「は? 何がよ」
「すごいメイクテクニック! やっぱりそうじゃないかと思ってたのよ、多分私たち仲間だよ」
「仲間? あなたと私が?」
派手ママはバッグの中からメイク落としシートを取り出すと、手鏡を片手にその場で丁寧にメイクを落とし始めました。
「あらま……」
メイクの下からあらわれた素顔を見て、Eさんはビックリ。なんと派手ママの素顔はEさんと同じ系統の、メイク映えするあっさりした顔立ちだったのです。
「なんだ、私たち2人ともメイク美人だったんだ」
「……そうみたいだね」
派手ママはEさんがメイク美人であることにうすうす勘づいていました。それにしてもテクニックがすごいので、なんとかそのテクを盗めないかとEさんの周りをうろちょろしていたというのです。
「ナチュラルに見えるのにそこまで変わるのはすごいわ、Eさん」
「いいわよ、教えてあげるから入って! あなたのメイクテクもなかなかすごいけどね」
その日からEさんと派手ママはメイクの情報を交換し合うようになり、いつの間にか無二の親友になっていたとのことです。
メイクにかける情熱は、嫌だった人も仲間に変えてしまうようですね。
ftnコラムニスト:緑子