子どもの母親と習い事の先生が恋に落ちてしまう、というのは漫画などでありそうなシチュエーションですよね。しかしその恋はただの不倫の恋ではなく、母親側の打算であることも。
今回はママ友と少年野球チームのコーチの恋を目撃してしまった私の友人Mさんのお話です。
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応援熱心な美人ママ

Mさんは当時小学校高学年の子どもを少年野球チームに加入させていて、週末の度に練習試合の送り迎えやお茶の当番をするなど、忙しくも充実した日々を送っていました。

Mさんの子どもは運動神経も良く、早くからレギュラーメンバー入りを果たすほどチームの中心を担っています。

元高校球児のコーチからも目をかけられているので、チームメイトからも羨ましがられていたそうです。

チームの保護者にはMさんと同世代の父母が多く、仲が良いので練習試合の日などは皆で声を揃えて応援したりもしていましたが、ある日Mさんは保護者の中に1人ちょっと周りと雰囲気の違う女性を見つけました。

「あれ、初めて会う人だな…… 」
その女性は細身で髪の長い美人で、他の保護者とはあまり会話を交わさずに応援をしています。見たところ若そうだし、コーチの彼女かな? と思ったMさん。
「ねえあのきれいな人、コーチの彼女?」
そばにいた仲良しのママ友に尋ねると、ママ友はぷっと噴き出しました。
「違う違う、あれSくんのママよ。いつもご主人が応援に来てたんだけど、最近はずっと奥さんが来てるみたい。若く見えるし、キレイよね」
「へー、そうなんだ…… 」
SくんというのはMさんの子どもと同い年で、練習熱心なのになかなかレギュラーに上がれずにいる男の子でした。今日もSくんは試合に出ておらず、ベンチで待機しています。

うっかり立ち聞き

急に雨が降ってきて、保護者も子どもたちも一旦屋根のあるところに避難することになりました。
「私、トイレいってこよ」
トイレから帰ってくる途中、MさんはさっきのSくんママらしき細身の女性がさっとどこかへ走っていくのを見かけました。
「トイレかな? そっちじゃないのに 」
おせっかいかとは思いましたが、Mさんはトイレの場所を教えてあげるため、彼女の後を追うことにしました。すると何故か彼女は用具入れの倉庫にまっしぐらに走っていきます。
「ん? そっちは立ち入り禁止だけど…… 」
かなり目を引く美人のSくんママが、人目を避けるように走っていくのになんとなく興味が湧いたMさんは、彼女に気付かれないように後を追いました。

「あれ、Sのお母さんじゃないですか。どうしました?」
とつぜん用具入れからコーチの声がしました。
「あの…… 」
Sくんのママはとてもか細く可愛らしい声で何かを話しかけています。

何を話しているんだろう? Mさんは2人に見つからないように用具入れの壁に張り付き、非常識だとは思いつつ会話を盗み聞きしてみることに。
「コーチ……私って、女性としてどうですか?」
「ええっ!?」

戸惑うコーチの運命は……

コーチの声は、驚きのあまりひっくり返っていました。
「おキレイだとは思いますけど…… 」
「ほんとに? 嬉しいです! あの、今度お食事でもどうかなって……」
コーチは元高校球児で、現在は市内で飲食店を経営しているまだ20代後半の若い男性です。確かに身体は引き締まっているしそこそこイケメンだし、憧れる保護者も少なくはありません。

「でもいきなり食事ってすごいな、勇気が。さすが美人は違うわ」
Mさんは感心していましたが、ふとあることに気付きました。彼女はSくんのママですし、最近まで旦那さんが試合の送迎をしてたということは、人妻なのです。
「いやいや絶対ダメでしょコーチ! 断ってー」
Mさんは心の中でそう叫びながら、2人の会話に神経を集中させました。

「残念ですが、子どもたちの保護者とは、プライベートで会わないようにしてるんです」
「えー、どうしてもダメ?」と食い下がるSくんママ。
「はい、ダメです」
「そんなあー」甘えた声で迫るSくんママ。

偶然通りかかったふりをして助けようかとMさんが思った瞬間、少年特有の甲高い声が響き渡りました。
「あー! コーチがSの母ちゃんとイチャイチャしてる!」
どうやらチームメイトの誰かがコーチを呼びに用具入れまで来たようでした。
「コラ、いい加減なこと言うなよー! じゃあ、試合再開みたいなんで僕はこれで」
コーチはこれ幸いと駆け出して行きます。MさんはSくんママに見つからないよう、裏道を通って保護者席へ戻りました。

「トイレ長かったね、混んでた?」
Mさんと仲の良いママ友が尋ねました。
「ん、いや、まあ…… 」
「あ、もしかして見ちゃった? Sくんママ」
「え、なんでわかるの!?」
「うちの上の子が、Sくんのお兄ちゃんと同じチームだったから。その時のコーチはもういないけど。でもすごいよね、自分の子をレギュラーにするためにコーチ誘うって」
「ん? どういうこと?」
「だからー、色仕掛けでレギュラー獲ろうとしてるってことよ」
「好きだから誘ってたわけじゃないってこと?」
「そうよ、全ては息子のため。全然ためになってないけど」
ママ友はそう言って肩をすくめ、ちらっとSくんママに視線を移します。Sくんママはまだ諦めきれないのか、くいいるようにコーチを見つめていました。

大きな子どもがいるようには全く見えない美貌とスタイルがあっても、使い方を間違えちゃいけないな、とMさんは思ったそうです。

息子に試合に出てほしい気持ちはわかりますが、自分の美貌で何もかも願いをかなえようとしていると、いつか子どもを傷つけることになるかもしれませんね。

ftnコラムニスト:緑子