今回は方言が原因のトラブルに巻き込まれた私の知人、Oさんのお話です。
義姉と同居
Oさんは関西出身で、就職のために上京。そしてまもなく同じ会社の男性と恋に落ち、結婚しました。
旦那さんの希望により、身体の弱いお義母さんと旦那さんのお姉さんと一緒に旦那さんの実家で暮らすことになったのですが、なんとお姉さんは30代になるのに一度も就職したことがなく、今も無職なのだそう。
お義母さんはそんなお姉さんに甘々で、お姉さんの欲しがるものはなんでも買い与えます。
旦那さんがそれを咎めると、「この子は働きになんかいかなくても、私がお金持ちで素敵な旦那様を見つけてあげるからいいの」と言う始末。
結局Oさんが4人分の家事を引き受けることになりました。
関西弁をバカにされ……
家のことを何から何までOさんに頼り切っているくせに、東京生まれ東京育ちのお姉さんはOさんが関西弁を話すのをバカにしてくるのでした。
「Oさん、まだ標準語喋れないの? こっちに来てもう何年になるのよ、聞いてるこっちが恥ずかしくなるわ。あー、恥ずかしくて死にそう! 」
「え、関西弁が恥ずかしいんですか? 」
「恥ずかしいわよ、下品だし。漫才師じゃないんだから」
「そんな……」
関西弁が恥ずかしいなら、一生関西に旅行できひんな……恥ずかしくて死んでまうで。Oさんは心の中でそうツッコミを入れました。
生まれ育った場所の言葉を毎日毎日バカにされ続けるのは不愉快ではありましたが、相手は義姉とはいえど世間知らずのお嬢様。言いたいだけ言わせておけばいい、という気持ちで聞き流していました。
ハイスペックなお見合い相手
ある日、Oさんは「今からお客様が来るから、ちゃんとおもてなししてよ」とお姉さんに釘を刺されました。
「え、誰が来るんですか? 」
「誰でもいいでしょ! 」
珍しくきちんとお化粧や身支度を整えているお姉さんは、赤くなって自分の部屋に戻ってしまいます。
「知り合いがね、良さそうな男性を紹介してくれるのよ。写真も見せて貰ったんだけど、これがもうとっても素敵で! あの子も一目で気に入ったみたい」
お姉さんの代わりにお義母さんが答えました。
「へえー、じゃあお見合いですね。うまくいくといいですね」
「きっとうまくいくわよ! 」
小一時間後、お姉さんのお見合い相手がやってきました。話に聞いていた通り、すらっと背の高いイケメン。
しかも高学歴で一流企業に勤めているという、なかなかハイスペックな男性のようです。
まさかの関西人
「ようこそいらっしゃいました! 」
お義母さんが華やいだ声で迎え、お見合い相手と紹介してくれた女性を応接間へ案内します。
「〇〇ちゃん(義姉)早くいらっしゃい!お待たせしたら悪いわよ」
「はあーい」
お姉さんもいつもとは全く違う声で返事をしているのが聞こえます。
「Oさん、コーヒー早くお願いね。高い方の豆で」
「はいはーい」
Oさんは言われた通りに高級な豆を使ったコーヒーを淹れ、応接間へ持っていきました。ドアをノックしようと部屋の前で立ち止まると、中の会話が聞こえてきます。
「△△さん(お見合い相手)は大阪のご出身なんですか? 」
「はい、育ちが大阪で……生まれはちゃうとこなんですが」
なんと、まさかの関西人。懐かしいイントネーションを耳にして、Oさんは微笑みながらドアをノックしました。
「コーヒーをお持ちしました」
「長男の嫁です。この子も関西出身なんですよ」
「そうなんですね、どうもおじゃましてます」
「あ……」
お姉さんのお見合い相手が関西なまりでOさんに挨拶をして、Oさんが口を開こうとすると、お姉さんがそれを遮るように甘えた声を出します。
「関西弁がとってもステキですね~! 優しそうで、上品な感じがして」
「……ん? 」
コーヒーカップを並べ終わり、Oさんは立ち去り際に笑顔で言いました。
「お姉さん、関西弁嫌いちゃいました? 下品とか、漫才師みたいやからって」
「なっ……! 」
「聞いてると恥ずかしくて死にそうなんでしょ? 私めっちゃ心配です。死んじゃう前に伝えておいた方が良いですよ」
「ちょっとOさん!」
「失礼しましたー!」
Oさんはその場が凍り付いている間にサッと応接間を出ました。その後、お姉さんやお義母さんがどう取り繕うかはOさんの知ったことではありません。
後で2人から怒られるであろうことはわかっていましたし、大人気ないかなとも思いましたが、お姉さんの手のひらの返しように腹が立って、言わずにはいられなかったのです。
結局お姉さんは後日、お見合い相手の方からお断りされてしまいました。
やはり、方言がどうだと人をバカにする前に、自分の生活を省みた方が良いですね。
ftnコラムニスト:緑子