慣れた道を白杖なしで歩いていた弱視の知人
その日、弱視の知人は白杖なしで歩いていました。
家から歩いて1分の場所にあるコンビニまでだから、白杖なしでも大丈夫だろうと思ったそうです。
うっすら見える建物を凝視していると、遠くからなにやら苛立っている人の声がしてきました。
その声はどんどん近くなり、知人が目を凝らしていると、ひとりの男性が知人の前で止まりました。
「おい! なに見てんだよ」声は大きく、背丈も知人よりも高いヤンキー風の男性。
知人は男性が苛立っているのがわかりました。
「私が何かしましたか?」知人が尋ねると……。
男性が言いました。
「おれを睨んでたやないか!」
知人は苛立っている男性に謝った
知人は最初、男性が何に苛立っているのかわかりませんでした。
しかし男性が言う「おれを睨んでいた」という言葉に反応しました。
「私は目があまり見えません。あなたを不快な気持ちにさせてしまい申し訳ない。
睨んでいたのではなく、一生懸命見ようと目を凝らしていたんだけどね」
「近くだから、白杖を持ってこなかった私が悪かったね。本当に申し訳なかったよ」
するとヤンキー風の男性が「なんだよ、そうだったのか。悪かったな急に怒鳴ったりして。ちょっとここで待っててくれないかなあ~。すぐに帰ってくるから」
そう言って、コンビニに入って行きました。
5分後、男性はビニール袋を提げて戻ってきたそうです。
2人仲良く近くの公園で缶コーヒーを飲む
男性は、知人を近くの公園に誘いました。
歩いているときも、歩幅を知人に合わせゆっくり歩く男性。
横断歩道を渡るときは、男性の腕を持つように知人に促しました。
風貌と口調はヤンキー風。でも「とても優しい子だったね」と知人は言います。
2人は公園のベンチに座り、30分ほど世間話をして別れました。
あの日から知人は、どんなに慣れた道でも白杖を持参するようになったそうです。
自分を守るための白杖。とても大切ですね。
知人は、そのときの男性との思い出を嬉しそうに語ってくれました。
ftnコラムニスト:立花彩夏