大事な嫁入り道具
Hさんは当時結婚を控えて色々と準備に追われていました。旦那さんが長男であることや、義実家ではお姑さんが1人で暮らしていることから、結婚をしたらすぐに義実家で同居をすることになっていました。
「部屋は空けてあるから、先に荷物送ってきたらいいわよ」
お姑さんがそう言ってくれたので、Hさんは新生活のためにベッドやチェストなどの家具を好きな北欧風の家具屋さんで揃え、義実家に送りました。
「家のインテリアは変えられないから、私たちの部屋は好きな家具にしていいよね? 」
「うん、Hに任せるよ。俺のわがままで、うちの実家で暮らすことを許してくれてありがとう」
旦那さんは新婚なのにお姑さんと同居になることを納得してくれたHさんに感謝をしているようで、自分たちの部屋のインテリアはHさんに一任してくれました。
義実家に家具を送ったはずが
そしてばたばたと挙式の日が訪れ、終わればすぐに2人は新婚旅行へ。
「ただいま、母さん!」
1週間のヨーロッパ旅行の後、2人はスーツケースを持って義実家へ。荷物は先に義実家に送って部屋に入れてもらっていたので、あとは荷解きをするだけ。
「おかえり! ここが2人の部屋よ」
お姑さんが案内してくれた部屋に入った瞬間、Hさんは目を疑いました。
「なにこれ……」
なんとその部屋に置かれていた家具は、Hさんが選んだものとは全く違ったのです。
「お義母さん! 私が送った家具はどうしちゃったんですか!?」
「ああ、あんな安っぽい家具、うちに合わないからリサイクルショップに引き取ってもらったわよ」
「え!? そんな…… 」
全く趣味の合わない家具に囲まれた部屋で、がくりと肩を落とすHさん。
「何やってんだ、母さん!」
旦那さんが思わず声を荒げました。
「あれはHが選んだ嫁入り道具なんだぞ!」
「何言ってんのよ、もうこの家の嫁なんだからうちの家風に慣れてもらわなきゃ」
「家風ってなんだよ! そんな名家でもないのに。信じられないよ! 同居は白紙だ。H、行こう」
激怒した旦那さんはHさんの手を引き、義実家を出ました。
同居は白紙に
その日はとりあえずホテルに泊まることになりました。
「うちの母親がこんなくだらない嫁いびりをするなんて思わなかったよ、本当にごめん」
「うん……でもショック」
「そうだよな? 明日家具を売ったっていうリサイクルショップに行って全部買い戻そう」
「え、いいの?」
「ああ、やっぱり2人で暮らそう。もう実家へも行かなくていい」
旦那さんの怒りは相当なもので、すぐにアパートを見つけてそこに荷物と買い戻した家具を運び込みました。
「ちょっと……一緒に暮らすんじゃないの?」
「全部台無しにしたのは母さんだろ」
旦那さんは追いすがるお姑さんに冷たく言い放ちました。
「女性にとって嫁入り道具がどんなに大事だったか、母さんは忘れたんだな」
「そんな…… 」
その後Hさんは二度と義実家に赴くことはなく、用事がある時は旦那さんだけが行くように。お姑さんはまだ同居を迫ってくるようですが、旦那さんは頑として応じないようです。
ftnコラムニスト:緑子