自分勝手なママ友
Yさんは普段から周りのママ友にあれこれ頼み事をしてお礼もなかったり、借りたものを返さなかったりと、自分勝手な言動の目立つ人でした。
ママ友たちは皆Yさんに目をつけられないよう微妙に距離をとっていたのですが、「ねえ、ランチしましょ! いいでしょ?」とYさんが言いだすとしつこいので断れずに集まっていました。
その日は夏休みだったので、子どもたちを連れてファミレスでママ友ランチ会をしていました。
「うちの子、お絵描きが苦手なのよね」
突然Yさんが言いだしました。夏休みの宿題で出た図工の宿題が防災ポスターの制作だったのですが、Yさんの子が絵を描くのを嫌がってなかなか手をつけないというのです。
「そうだ、Aさん! あなた在宅ワークしてるんだっけ? どうせ在宅でできることなんて内職みたいなもんでしょ? そんな暇あるんだったら描いてよ、お金払うから」
Yさんはいつも控えめでおとなしいママ友のAさんに言いました。確かにAさんはずっと在宅の仕事をしているのですが……。
在宅ママの仕事とは
「別にいいけど、ギャラはおいくら?」
Aさんはにっこりと微笑みながら答えました。
「いくらでも、言い値で払ってあげるわよ。内職よりずっと稼げるわよ 」
「そう、わかったわ。私、絵は得意だし」
「なら約束よ!」
普段おとなしいAさんですが、今日はなんだか言葉に重みがあり、周りのママ友たちはハラハラしながら2人を見守っていました。
「ねえ、やめときなよ。宿題なんだから自分でやらせなきゃ」
たまりかねてひとりのママ友がYさんに言いました。
「いい子ぶってんじゃないわよ! うちの子には苦手なことに時間を割いて欲しくないの、うちの子は賢いからその分お勉強に時間を使えばいいのよ」
「いや、そうじゃなくてさ…… 」
「じゃあ何なのよ? 内職するほどお金に困ってるお友達に、仕事紹介してあげてんのよ。いいでしょ?」
Yさんの言葉に、ママ友たちは皆ぷっと噴き出しました。
「あのさ、Aさんの仕事は内職じゃないよ」
「はあ!?」
「私、プロのイラストレーターなの。結構人気なのよ」
Aさんはそう言ってまたにっこり笑い、スマホで自分の作品が載っているホームページを開いてYさんに見せました。
「ポスターの大きさだと、結構な金額のギャラを頂くけど大丈夫?」
「え……?」
「プロに依頼したんだもんね、いくらかかるか知らないけどちゃんと払いなよ」
ママ友がそう言うと、Yさんはみるみるうちに青ざめてしまいました。それもそのはず、Aさんの見せたホームページには、誰もが良く知っている人気のキャラクターの絵が載っていたのです。
「みんな、知ってたの?」
すっかり力をなくした声で言うYさん。実はママ友のひとりがAさんのファンだったので、そこに集まったYさん以外のママ友は皆Aさんの仕事を知っていたのです。
「じゃあ、後で見積もりを……」
Aさんがそう言うと、Yさんは「もう結構よ!」と言って子どもの手を引き、ファミレスから出ていってしまいました。
「あーあ、お金払わないで行っちゃったね」
「まあいっか、もう一緒にランチすることもないし」
「そうね」
残されたAさんとママ友たちは仕方なくYさんの分を払いました。
人を見下して強引に物事を進めようとするのは良くないですね。その後Yさんは、Aさんのいるママ友グループには二度と近寄らなかったそうです。
ftnコラムニスト:緑子