ゴミ捨て場でよく会う人
Aさんは当時、戸数の多いマンションで旦那さんと2人暮らし。2人とも働いているので家事は分担していましたが、旦那さんには夜勤があるのでゴミ捨てはAさんの仕事でした。
「おはようございます」
出勤の途中にゴミ捨て場に寄ると、同じマンションの住人らしい女性がゴミ捨て場でごそごそとゴミ袋の口を縛っていました。
「おはよう…… ございます」
ゴミ袋が破れてしまったのかな、とその時は何も気に留めていなかったAさん。Aさんが住んでいる地域のゴミ袋は有料なのにあまり丈夫ではなく、そのことで住民からの苦情が続出していました。
それからゴミの日の度に、Aさんはその女性とゴミ捨て場でよく顔を合わせるようになりました。
Aさんがゴミ捨てに行く時間は出勤前だったり、朝起きてすぐだったりとまちまちだったのにも関わらず、いつも同じ女性に会うのです。最初はタイミングがピッタリなのかと思っていましたが、あまりに続くのでだんだん不思議に思えてきました。
衝撃の光景
「あら、Aさんおはよう」
「おはようございます」
例の女性によく会うようになってから3ヶ月目の、あるゴミの日。Aさんはたまたま隣の部屋の奥さんとエレベーターホールで顔を合わせました。
「あの、最近ゴミ捨て場でよく会う人がいるんですけど」
「Aさんも? 実は私も気になってて。多分2階の人だと思うけど、いつ行っても会うのよねえ」
「今日もいたりして」
「ほんとね」
談笑しながらゴミ捨て場に行くと、やっぱりいつもゴミ捨て場で会う女性が、Aさんたちに背中を向けてごそごそしていました。
「何してるんだろ……」
「シッ……ちょっと見てましょ」
声をかけようとしたAさんを、隣りの部屋の奥さんが制止します。
「ちょっと……」
よく見ていると、例の女性は指定ではない透明のビニール袋からゴミを出して、口の開いているゴミ袋に詰め込んでいる様子。
そのまま黙って見ていたところ、手元のゴミ袋がいっぱいになるときょろきょろとゴミ捨て場を見渡し、まだゴミの入りそうな袋を見つけては袋を開けて、透明の袋からゴミを出して詰め込んでいます。
「有料のゴミ袋をケチってるのね…… 」
隣りの奥さんが呟きました。どうやら彼女は自分の家から持ってきたゴミを他の家のゴミ袋に詰め込んでいるようでした。
このままゴミを捨てると自分のゴミ袋も開けられてしまいそうで、2人とも顔を見合わせてそのまま固まってしまいました。
「あ、あの! 何してるんですか?」
勇気を出してAさんが声をかけると、女性はビクッと肩をふるわせて振り返りました。
「いえ…… 何も」
ゴミを詰め終わったのか、立ち上がって足早にそこを離れる女性。
「あの人、誰もいない時間を見計らうためにずっとゴミ捨て場にいたのね」
「そうみたいですね。一応管理人さんに言っておきましょう」
「そうね、ゴミ袋開けられちゃたまんないわ」
Aさんは隣の奥さんと一緒に管理人室に赴き、ゴミ捨て場での一件を管理人さんに報告しました。
その後、ゴミの日になると管理人さんがよくゴミ捨て場付近を見回るようになり、Aさんが例の女性に毎回会うということはなくなりました。
有料ゴミ袋を節約するために他の家のゴミ袋を開けて入れるなんて、非常識すぎますね。
ftnコラムニスト:緑子