これは、スマホはもちろん携帯さえ普及しておらず、連絡手段がほとんどなかったころのお話です。一人暮らしの祖父の家から愛犬ポチが逃げ出しました。丸一日探しても見つからず諦めていると、一本の電話がかかってきて……。
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祖父の愛犬ポチが逃げ出す

祖父は祖母を亡くして以来、一緒に暮らす愛犬のポチをとても可愛がっていました。

ある朝「ポチ散歩に行くぞ」と犬小屋に向かって呼びかけた祖父。いつもならポチが元気よく飛び出してくるのに、物音ひとつしません。犬小屋をのぞくと、なんとポチの姿はありませんでした。

家族総出で探してもポチを発見できず……

「ポチがおらんくなった!」祖父から電話をうけた私たち家族は、すぐに近所を探し始めました。

怖がりのポチのことだから、くぅくぅと鳴きながら物陰にでも隠れているはずだし、すぐに見つかるだろうと思っていました。

しかし、日没まで探しましたが結局ポチは見つかりませんでした。近所の方にも、ポチを見かけなかったか聞いて回ったのですが、誰も目撃した人はいませんでした。

親切な女性たちに保護されていたポチ

翌日、動物病院から「お宅のワンちゃんを預かっていますよ」と連絡がきました。病院に行くと、ポチがいるではありませんか!

スタッフさんによると、昨日の朝、女性二人がポチを病院に連れてきたというのです。どうやら、大きな通りをヨボヨボの犬が歩いているのを見つけ、すぐに保護し動物病院に運んでくれたそうです。ポチは十五歳をすぎており、目はほとんど見えていませんでした。もし女性たちが保護していなければ、ポチは車に跳ねられていたかもしれません。

本当に、優しい方たちに助けられてポチは幸せ者です。しかも、女性たちは診察代まで支払ってくれたのです。私たちは、病院から女性たちの連絡先を教えてもらい、すぐにお礼の連絡を入れました。

そして、後日、支払っていただいた診察代とお菓子の詰め合わせを持って家族でお礼に伺いました。

ポチが脱走したことで知った祖母の優しさ

ちなみに、どうして病院で保護された犬が我が家のポチだと分かったかというと……。

ポチの首輪の裏には、祖父宅の住所と電話番号が書いてあったのです。

私たちが「一体誰が書いたの?」と疑問に思っていると、祖父が「この字はばあちゃんの字だよ。間違いない」と嬉しそうにしています。

祖父の一言で、私たちは「よく気が利くおばあちゃんだったし、何かあったときのために書いてくれていたんだね」と笑い合いました。
こうして祖父は、親切な女性たちと大好きだった祖母のおかげで愛犬ポチと再会できたのでした。

ftnコラムニスト:広田あや子